強制閉店を宣告されたショップ。だが、オーナーが差し止め請求を行い、現在も営業を継続(記者撮影)

「ソフトバンクとは奴隷契約を結んだつもりはない。このまま黙って引き下がることはできない」。ソフトバンクショップを運営する携帯電話販売代理店IFC(本社は大阪市西区)の代表を務める大西誠氏は、そう憤る。

IFCは東京都内にソフトバンクショップを3店舗持つが、うち2店舗は2020年1月、ソフトバンクから今夏までに「強制閉店」させることを通告された。同社はこれを不当として6月、東京地方裁判所に閉店処分の差し止めを申し立てた。

ソフトバンクが強制閉店の理由とするのが、IFCの成績不振だ。ソフトバンクは同社独自の基準による成績評価により、一定水準に達しない店舗を強制閉店させる制度を取っている。

法廷で焦点となっているのは、この強制閉店制度や評価指標の妥当性だ。

これらの施策はソフトバンクショップを運営するほかの代理店も対象となっており、司法がどのように評価するのかは、代理店全体やソフトバンクショップの利用者にも影響する。評価項目の中心となるのは、大容量プランの契約をどれだけ取れたかや、ソフトバンクが指定する端末をどれだけ売れたかの成績だ。

このため代理店は顧客のニーズに関係なく大容量プランなどを積極的に薦めるケースが多く、結果的に不必要に高額なプランに加入させられている利用者も少なくないとみられる。この評価制度が今後も続くかどうかという点で、ソフトバンクとIFCの争いの結果が持つ意味は大きい。

販売成績で「5段階」にランク分け

ソフトバンクが強制閉店を含む評価制度を導入したのは2016年3月ごろで、その骨格は以下のとおりだ。

ソフトバンクは代理店が運営する各ショップをさまざまなサービスや商材の販売成績によって採点したうえで、相対評価で店舗をS、A、B、C、Dの5段階にランク分けしている。

この店舗評価は毎月ある。6カ月間でD評価を3回取ると「低評価店舗」となり、一定の閉店準備期間を置いた後に強制的に代理店契約を解除する措置が取られる。C評価は2回でD評価1回分とカウントされる。

なお、店舗評価のほかに、運営する全店舗の成績などから決まる代理店へのオーナー評価もある。こちらは四半期ごとに1回で、店舗評価と同様にS〜Dの5段階評価だ。2期連続でD評価を取ると全店舗の経営権を事実上、剥奪される。

店舗評価とオーナー評価は、悪ければ強制閉店につながるだけでなく、ほかにも重要な意味を持つ。両評価の組み合わせにより、店舗が顧客対応でソフトバンクからもらえるインセンティブの水準が大きく変動するからだ。

評価による傾斜は激しく、スマートフォンの機種変更のケースなら両評価がSの場合、1件の契約につき3300円のインセンティブがもらえるが、両評価が真ん中のBなら、同じ手間を割いてもインセンティブは0円だ(図表1下表)。店舗評価、オーナー評価は代理店の収益に直結するのだ。

[図表1]

IFCが強制閉店を通告された2店舗は、2020年1月までの間にDを3回受けた。

強制閉店制度は後出し

問題は、この強制閉店制度が後出しであることだ。IFCがソフトバンク側と代理店契約を結んでソフトバンクショップ事業に参入したのは2012年12月で、その時点ではこの制度はまだ存在していなかった。

当時結んだ代理店契約書では契約解除について、「委託業務の履行実績が一定の期間を通じて不振である等相当の理由があると甲が判断する場合、1カ月以上前に予告することによって契約を解除できる」と記されているのみだ。

なお、IFCは2次代理店で、正確にはこの「甲」は1次代理店のテレコムサービスを指すが、IFCに対して「ルールに基づいて両店とも他社への譲渡をお願いします」と強制閉店の通告を行ったのはソフトバンクの担当部長だ。実態からしてソフトバンクが契約解除の判断を行う主体だ。

IFCを含む代理店が、ソフトバンクから契約書にはない強制閉店制度の導入と開始を知らされたのは突然で、かつ一方的だった。

ソフトバンクは代理店に対して、150ページ前後にも及ぶ大量の文書を毎月送付し、施策方針を一方的に伝達している。この中に記載する形で、販売実績への採点による強制閉店制度が伝えられたのだ。複数の代理店によれば、ソフトバンクは代理店各社に合意を取っていないばかりか、事前に協議をすることもいっさいなかったという。

強制閉店はおかしいと何度も訴えた

代理店側からすると、過失などによる業績不振などの理由がない場合でも、ソフトバンク側の都合による評価指標で販売実績を厳しく査定される。「不振」と判定されると短期間で契約を解除される制度があれば、大きなリスクとなる。

ショップを始めるには多額の初期投資がかかる。このため、代理店は事業を継続的に行って利益を出し続けることで回収する必要がある。突如、契約を打ち切られるようであれば、大打撃を受ける。

大西氏は「強制閉店制度が初めから存在していて、まじめに業務をやっていても解約されるリスクがあるとわかっていれば、このソフトバンクショップ事業には参入しなかった」と話す。

「制度が導入された4年前から一貫して、『強制閉店制度はおかしい』と何度も訴えてきたが、ソフトバンクは聞く耳を持たなかった」(同氏)

こうした経緯も含めてIFCは「ソフトバンクが圧倒的な力関係によって一方的に導入した強制閉店制度に従うことを強いるのは、独占禁止法の優越的地位の濫用に当たる」と主張する。


ソフトバンクの言い分

これに対し、ソフトバンクは強制閉店制度を「契約書の解除条件の『不振』について具体化したにすぎない」とし、「導入前から不振の店舗に退出を促す施策をしており、その意味では突然ではない」と反論する。

IFCはソフトバンク側から不振と認定されたこと自体にも異論を唱え、「ソフトバンク側だけから見て不振と判定するのはおかしい」と主張する。強制閉店対象とされた2店舗は営業黒字で、IFCから見れば不振ではないからだ。

IFCは「代理店契約書の解除条項にある『不振』は故意・過失での業務懈怠(けたい)があり、再三の注意・勧告等があっても改善がない場合等に限られるべきである」として「IFCは誠実に店舗を運営しており、強制閉店を求められる理由がない」と主張している。

店舗評価のランクを決める成績査定の妥当性についても、ソフトバンクとIFCは真っ向から対立する。

成績評価はソフトバンクのサービスや商材をどれだけ売ったかの積み上げで決まる。が、大きな比重を占めるのは通信契約の獲得やスマホ端末の販売だ。ソフトバンクはこれを「ボリューム評価」と称している。

ただし、この評価点は単なる量だけでは決まらない。むしろ、ソフトバンクが売りたいものを売っているかが極めて重要となる。

ショップで最も多い販売形態は、通信契約のタイミングでスマホ端末を購入してもらうものだ。

ボリューム評価ではまず、この販売端末の種類によって得点をつける。ソフトバンクが売りたい端末ほど高得点となる。例えばスマホでもグーグル「Pixel」なら7点だが、「iPhone」は消費者に人気なのにわずか2点だ。ここに、通話に必要な音声の「基本プラン」でつく8点を加えたものが基準点となる。

この基準点に、ソフトバンクが重視する通信契約の評価が係数として掛けられ、店舗が得られる点数が確定する仕組みだ。


この係数は、通信契約が「新規」なのか「継続」(いわゆる機種変更)なのかや、他社からの乗り換え(MNP)なのか、月間のデータ容量が50ギガバイトの大容量プランなのか、データ容量が少なく月額料金も安い小容量プランなのかによって大きく変わる。

小容量プランの場合は、係数0.5が掛けられる。つまり大容量プランに加入させることができなければ、端末販売と音声の基本プランで獲得した基準点が半減することになる。他方でMNPの評価は非常に高く、係数は4.0だ。

顧客ニーズは二の次

このボリューム評価に、顧客のニーズに沿った販売なのかはまったく関係がない。むしろニーズを無視してでもソフトバンクが売りたいサービスや商材を売ったほうが高得点となるのだ。

例えばiPhoneの購入を希望し、かつ月間のデータ通信量がさほど多くない顧客が来店した場合。iPhoneを売って小容量プランの契約を取ると獲得できる点数は5点だ。だが、もし端末を先述のPixelに誘導し、かつ大容量プランに加入させれば、点数は3倍の15点になる。

この得点の積み重ねが店舗ランクを左右するため、IFCは「代理店が顧客の希望に沿った販売をしていては獲得ポイントが低下しかねない。顧客の利用形態に合ったプランの提案を行うことを困難にする評価制度だ」として、評価の中身に妥当性がないとしている。

このほか、この3月までは「重点項目評価」という制度も存在していた。現在は廃止されているが、この制度はショップが顧客をどれだけ高水準の割合で大容量プランに加入させたかで評価づけするものだった。

大容量プランの項目の場合、加入率が80%ならば4点、75%未満なら0点と採点されるようになっていた。複数の項目の加入率などで決まる総合点が悪ければ店舗評価が1ランク下がる仕組みだった。

この重点項目評価とボリューム評価の締め付けの影響は非常に大きく、複数の代理店関係者は「相手がほとんどデータ容量を使わない高齢者であろうが、大容量プランを薦めてしまうことが多々ある」と証言する。

総務省の電気通信事業法のガイドラインでは、料金プランやオプションについて、「利用実態に合った適切な説明をすること」を求めたうえで、「利用者のニーズを踏まえずに特定の料金プランの推奨を行うことは不適切である」と明記している。IFCは、ソフトバンクの評価制度はこの適合性の原則にも反していると指摘する。

D評価の閉店は「健全な新陳代謝」

ソフトバンクは、「2018、2019年の実績で店舗評価Dの割合は4〜9%、Cの割合は6〜14%にすぎない。また重点項目評価は補足的な位置づけであり、かつこれによって店舗ランクが降格する割合は5〜7%程度だ」と反論する。そして、低評価に該当する店の割合が小さいことを理由に、「販売代理店の健全な新陳代謝を促し、顧客の満足度を維持するうえで強制閉店は必須の制度である」と主張している。

このソフトバンクの論理からすると、強制閉店の対象店舗は接客サービスなどに問題があり、退出してもらったほうが顧客のためになる、ということになる。


だが、はたして本当にそうなのか。両社の言い分を検証するうえで、興味深い成績結果がある。

IFCが半年間でのD評価3回を理由に閉店を求められている2店について、ともに1回目のD評価は2019年10月だが、実はその直前の同9月はそれぞれA、Bの好評価だった。


本誌が関係者から入手したD評価を3回受けると強制閉店となることを図示した施策資料(記者撮影)

それがいきなり、両店ともにDとなり、その後にIFCが運営する3店のうちa店は11、12月も連続でD評価、b店は12月と年明けの1月にD評価がつき、あっという間に強制閉店措置の対象になったのだ。

この急転落の背景にあるのが、2019年10月に施行された改正電気通信事業法だ。

それまで、ソフトバンクの代理店では、10万円前後のスマホ端末を実質0円まで値引くなどの高額なキャッシュバックによってMNPを獲得し、成績評価を保つところもあった。それが法改正で困難になり、MNPに依存していた代理店ほど評価が悪化している。

IFCもその1社だ。自社の持ち出しによって大幅な端末値引きをしていた間は、財務的にはきつくても、店舗評価を一定以上のランクに保っていたのだ。だが、法改正によって過度な端末の値引きやキャッシュバックは禁じられた。同法が施行された2019年10月を境としてIFCの獲得点数は大幅に下がり、評価も急激にダウンしたのだ。

評価を左右したのは

この事実が明らかにするのは、IFCの評価を大きく左右していたのは、ソフトバンクが求める販売実績をあげられているかどうかだったということだ。もしIFC自体に大きな欠陥や問題があり、それが評価を決めていたのであれば9月以前の評価も低いはず。が、実際は高かった。

もしソフトバンクの評価指標が利用者のためになる店舗なのかどうかを反映するようなものであれば、IFCのように店舗評価が急降下するとは考えにくい。

IFCの弁護人の早稲田リーガルコモンズ法律事務所の川上資人弁護士は「ソフトバンクの施策は、消費者や販売代理店の利益をいっさい考慮せず、ソフトバンクの利益のみを基準に策定した極めて一方的なものだ。それを合意もなく押し付けて閉店を強いることは認められるべきではない」と言う。

ソフトバンクとIFCがその是非を争う強制閉店制度や店舗評価はソフトバンクの代理店施策の根幹を成すものだ。もし、今回の法廷闘争でIFCの言い分が通れば、ソフトバンクは施策の大幅な見直しを迫られる可能性があり、大きな波紋を生み出しかねない。差し止めの申し立てを巡る裁判所の結論は早ければ10月中に出る。

本記事を含むフルバージョンは「東洋経済プラス」に掲載。「ドコモ、auの過酷な評価」についてや、総務省の有識者会議委員を長く務める野村総合研究所パートナー・北俊一氏のインタビューも掲載しています。