ビジネス書の書棚に行くとよく目に入るのが「成功指南書」です。お金を稼ぐことができる、年収1000万円を達成する。そのためにはどうすればいいのかということがつづられています。
 しかし、お金を稼いだだけで人生は終わりません。大事なのは稼いだお金をいかに守っていくのか。2015年1月に相続税が増税したこともあり、税金に対して気にかけはじめたという人も多いでしょう。

 税理士の岩佐孝彦さんが執筆した『「ずっとお金持ち」の人 成金で終わる人』(日本実業出版社/刊)はお金をいかにして守っていくかという観点から、税金や相続の知識を教えてくれる一冊。
 今回は岩佐さんにインタビューを行い、本書の内容を中心にお話をうかがってきました。その前編をお伝えします。
(新刊JP編集部)

■増税が進む日本、どのように対策すべきなのか?

――まず、岩佐さんの「金持ちが三代続く相続を実現させる『税理士』」という肩書きがとてもユニークだと思いました。この肩書きの由来を教えていただけますか?

岩佐:実はもともと私自身が「二代目崩れ」の過去がありまして、20代の頃親戚が経営するマーケティングコンサルティング会社の後継者として勤務していたことがありました。私の叔父はリテールサポートという、大手企業による小売店支援の第一人者で、バブル当時は日本のシンクタンクのベスト10にランクインするほどの勢いがあったんですね。
ただ、叔父と私は実の親子関係ではありませんでしたから、事業継承にあたって完全に叔父のビジョンが共有できないまま、志半ばで32歳の時に退職し、独立起業の道を選んでしまいました。私が退職後、この会社は後継者不在のまま第三者に譲渡されるという挫折を味わい、その後、先代が2年前に亡くなったことを知り、継がせる者と継ぐ者の双方にすれ違いがあったのではないかという後悔の念があって、過去の自分への戒めの意味を込めて現在の仕事をしています。なかでも代々続いていく富豪の研究をライフワークとしています。
このような活動をしている中で、税理士としてのクライアントの8割が富裕層で占められるようになり、「金持ちが三代続く相続を実現させる『税理士』」と言っていただけるようになったという経緯ですね。自分が果たせなかった夢を、クライアントの2代目・3代目に託す意味でも日々仕事しています。

――書籍のタイトルがキャッチーでありつつ、読んでみると相続や税制について非常に詳しく書かれている印象を受けました。タイトルに込められた想いを教えていただけますか?

岩佐:世間には成功本がたくさん出ていますが、そういう本の多くはいかに成功するかにフォーカスされているんです。ただ、秒速1億円で有名な与沢翼さんが「お金を守ることは、稼ぐことの何倍も難しい」と言っていたのですが、まさにその言葉通りでして、本当の勝負はお金を稼いだあとなんです。彼は税金の未納で話題になりましたが、税理士の視点から見ても、あの言葉は深いものを感じました。
それは一代だけに限らず、代々引き継いでいくということにも相通ずるところがあります。どのように資産を守るのかというのは大変難しいことです。本書は成金が落ちぶれることの怖さに対して警鐘を鳴らす本ですから、成金で終わる人と、ずっとお金持ちでいられる人の対比を明確にしたいという思いから、このタイトルをつけました。

――莫大なお金が手に入れば、ほとんどの人は多少あれ金銭感覚が狂うものだと思います。その後を考えずにお金を使ってしまった…という話はよく聞きますね。

岩佐:それはありますね。お金が感情と紐づかなくなってしまう。コンプレックスをバネに成り上がってきた人は特に自分を誇示したい方向に行ってしまいます。

――他に、一代限りの成金で終わってしまう人に共通する特徴はありますか?

岩佐:あとは税金に対して無防備であるというところです。多くの人が誤解しているのですが、稼ぎが2倍になれば、手取りも2倍というわけではないんです。日本の税率は累進税率でして、所得が高くなればなるほど高い税率がかけられます。「年収1000万円でも貧乏人」という話をよく聞きますが、使うお金だけでなく、支払う税金も増えるわけですね。お金が手に入ったからと、急に羽振りの良い格好をして赤坂や六本木あたりで豪遊する人は成金で終わってしまいます。

――そういう意味では、私たち一般人にとっても税金についての知識はすごく重要だと思うのですね。ただ、どのようなところから情報を得るのかもままならないと思います。

岩佐:サラリーマンの方々が税金に無頓着になるのは当然なんです。それはなぜかというと、源泉徴収制度があるからです。つまり、給与からの天引きですね。働く側からすると面倒な税金計算をしなくても会社が代行してくれるという面があるのですが、一方で納税意識が薄くなってしまいがちです。
もともとこの制度は1940年に当時のドイツに習って戦費の調達として始まったもので、戦後70年経つのに残っているということは、課税当局からすれば非常に便利だということになると思います。
一方で、給与所得者側にとっては、盲目的に働くだけのライフスタイルになり、税金を自分の頭で考えなくなってしまいます。だから、今年1月に相続税が増税になりましたが、相続税は自分で申告するという制度なので、これを機に税金に対するアンテナを高めてもらいたいですね。

――毎年何かしらの税制改正が行われていますが、そういった情報をどのようにキャッチすればいいのでしょうか?

岩佐:毎年12月中旬に、政府から税制改正の大枠が発表されるので、そこにアンテナを張っておくことです。その時期は世間的にも忙しく、難しいかもしれませんが、施行されるまでタイムラグがあるので、その間に準備を固めることはできるはずです。

――累進税率のお話が出たところで伺ってみたかったのですが、今、トマ・ピケティというフランスの経済学者が富裕層への累進課税を進めよと提言しています。これについてはどうお考えですか?

岩佐:ピケティは不平等是正のために累進課税を強化すべきだと言っているのですが、実は日本ではその方向に少なからず進んでいるというのが実態です。所得税と相続税は累進構造になっていて、今年1月の相続増税はまさに、累進度合いが上がったということですよね。
ただ、税理士として富裕層のクライアントから聞くのは、税金がこれ以上高くなると、労働意欲がなくなるという声です。また、相続税の観点からいえば、世界的に見ると減税の方向に向かっていますし、さまざまな問題点があるというのが現状です。
私はピケティの提案に対しては賛成でも反対でもありません。目の前の現実を受け止めるだけです。増税を批判しても何も始まりませんし、与えられた環境で日本人として税制に従いながら、盲目的に税金を払うのではなく、知識を身につけて最善を尽くすというスタンスが大事だと思っています。

(後編に続く)