イタリア半島の都市国家として誕生したのち、地中海地域を支配し、繁栄を誇った「古代ローマ帝国」。はるか紀元前の話だが、富にあふれ、物質的に満たされていた当時のローマ文化や暮らしは、今もなお世界中の人々の興味をそそり、多くの映画やテレビ番組でとりあげられている。

古代ローマの公衆浴場がテーマの映画が大ヒットしたのも記憶に新しく、当時のローマ人たちは「お風呂好き=きれい好き」なイメージだが、上流階級の人々が毎晩のようにおこなう宴会の食事マナーは驚くほど最悪だった。

長時間に渡って寝そべりながら食べ続け、おならやゲップは「満足」のサイン、満腹になるとわざと吐き戻し、次の食事を続けることが「マナー」の、下品なイベントだったのだ。

■古代ローマ人の饗宴は「驚」宴!

水道が整備され公衆浴場が社会生活の中心であった古代ローマ時代。すぐれた建築技術や業績を誇り、知的で清潔なイメージ…だが、上流階級の宴会は別。貴族や商人たちが毎晩のようにおこなった「ケーナ」と呼ばれる饗宴の食事マナーは、現代を基準にすると史上最悪レベルだった。

明るいうちから特別な会場でおこなわれたケーナでは、卵と野菜のサラダや、キャビア、フォアグラ、エスカルゴなどのオードブル、豚、鹿の丸焼きや魚介類を使ったメインディッシュなど、豪華なフルコースがふるまわれた。

豚の乳房やラクダの足などの珍品も好まれ、宴は長時間に及んだというが、何より特徴的なのは、その驚きの食事マナーである。

ケーナの会場に「コ」の字型に並べられた3つの寝椅子には、3名ずつ最大9名の参加者が、体の左側を下に、左ひじをついて横向きに寝そべり、中央の円卓を囲む。左手で皿を持ち、右の手づかみで料理を口に運ぶという決まりがあった。

さらに驚愕なのは、食事中のおならやゲップが「食事に満足しているサイン」と非常に喜ばれたうえ、満腹になると、のどの奥に鳥の羽根を突っ込んで吐き戻し、再び食べ続けることも立派なマナーだった。会場には奴隷たちがいて、嘔吐の後処理や床にこぼれた食べカスの掃除はもちろん、参加者が食事中に用を足すための尿瓶(しびん)まで用意したという。

現代のマナーからすると、下品きわまりない行為だが、当時は最高のマナーだったのだ。上流階級と交流があれば、一般庶民もケーナに招かれることがあったようだが、ごちそうが頂けるとしても…参加したくない。

■ケーナからの「コミサティオ」

ケーナも終盤を迎えると、料理のかわりにワインが並べられ「コミサティオ」という酒宴へと移行する。「一気飲み」が好まれ、参加者たちは大きな杯に注がれたワインを次々と飲み干していったという。ご存じのとおり一気飲みは危険な行為なので、古代ローマにあこがれても絶対にマネしないでいただきたい。

余興もハチャメチャで、ランチキ騒ぎは当たり前。祝祭の季節には「無礼講」と称し、身分の高い人と低い人が入れ替わる「さかさま祭り」をおこない、階級秩序を茶化して盛り上がった。明るくおおらかな人たちの酒席とはいえ、後々問題が起きなかったのか気になるところだ。

諸説あるが、この「さかさま祭り」は、皇帝の席に道化(Fool)が座る「Feast of Fools(道化の宴会)」と呼ばれたことから、「エイプリル・フール」の語源とも言われている。

■まとめ

・古代ローマでは、寝そべりながら食べ続けるのが正しい作法

・食事中のおならやゲップは満足のサイン

・満腹になったら吐き戻して、次の料理を食べる

・余興の「さかさま祭り」は、「エイプリル・フール」の語源という説もある

体の左側を下にして寝そべったまま食べ続けたという、古代ローマ人の体勢を試してみたが…長時間は絶対にきつい。

現代の医学では、体の右側を下にして横になると、胃袋の形状上、消化が促進されることがわかっているので、もし試してみたくなったら、「右側が下」をオススメしたい。

(熊田 由紀/ガリレオワークス)