その女はスーパーで裸になっていた。なぜ彼女はこのような格好なのか。話は2カ月前にさかのぼる。2カ月という時間がマジメで大人しかった彼女を変えたのだ。


女の名前は橋本マナミ。働かないダメ男が夫で、仕事も家事も全てマナミが行なっている。まだ6歳の子供がおり、その子の成長がマナミの唯一の幸せだった。


しかし、そんな幸せは突然失われる。体に不調を感じ訪れた病院で精密検査を受けた結果、ある不治の病を宣告されたのだ。


マナミ「それで、私は治るんですか…?」
医者「残念ながら、あと2年持てば良いのですが…」
マナミは絶望した。まだ6歳の子供がいるのに、私がいなくなればどうなるのか。

その時に思い出したのが、ガンで余命2年と宣告された真面目な50歳の高校教師が、家族にお金を残すために麻薬を密造するドラマ『ブレイキング・バッド』だ。全米で最もツイートされて社会現象となったドラマで、エミー賞で累計58のノミネートを獲得している。


高校で科学を教えるウォルターには、脳性麻痺の子どもと身ごもっている妻がいた。自分が亡くなった後に家族が苦労しないように財産を残そうと、ドラッグの精製というヤバすぎる副業に手を出し、内気で温厚だったウォルターは道を踏み外していく。


このドラマのように何か稼ぎのよい副業はないかと考えていたマナミは、同僚の立花亜野芽(アヤメ)がキャバクラで副業している事を思い出した。

彼女は強くて自由だ。仕事でもハッキリと意思表示し、一方で好きな男には相手の意思とは関係なくアプローチして狩りとる。



亜野芽の趣味は「エアセックスダンス」。このダンスを一度見た男は、脳内でこのダンスがループしてもう逃げられない。野獣を前にしたヒヨコのように硬直したまま食べられてしまう。


元々は厳格な親に育てられた亜野芽だが、高校時代に退屈のあまり家出してからクラブ通い。その激しいエアセックスダンスは人気となり、男を自由に狩っていた。


昼はOL、夜はキャバクラで働く亜野芽。マナミはそんな亜野芽を軽蔑していたが、余命を宣告された今、家族のためにお金を残すにはこれしかないと、亜野芽に助言を求めた。


「私、亜野芽さんのように強くなりたいんです。」
「しょうがねえなあ…」

危ない世界ほど、相棒は大切だ。ドラマ『ブレイキング・バッド』でも、真面目なウォルターは、元教え子で麻薬の売人であるピンクマンとチームを組むことで、悪の世界に入れたのをマナミは覚えていた。


そして亜野芽による、夜の街で「男の落とす方法」の特訓がはじまった。亜野芽はどんな男も、綿密に組まれたプログラムのように、的確に落とした。


怯えるオタクも彼女の手にかかれば笑顔になる。オタクは肉弾戦に弱い。彼女は自分の肉体を惜しみなく使うのだ。




そしてマナミは、亜野芽からの教えをスポンジのように吸収していった。