漫画家にとって最大の屈辱、それは連載の打ち切りだ。今でこそ脚光を浴びている人気漫画家であっても、過去に意外な理由で連載の打ち切りを経験している作家は少なくない。

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ここでは、そんな不遇の打ち切り作品の中から、電子書籍で読める隠れた名作を紹介していこう。

■打ち切り理由が笑えない……。『トリコ』の作者が描く爆笑必至のバトルギャグ漫画

<『世紀末リーダー伝たけし!』作品のあらすじ>
“リーダー的存在” である小学1年生「たけし」を主人公とするバトルギャグ漫画。

1997年より「週刊少年ジャンプ」で連載され、下ネタ満載のくだらないギャグと劇画タッチで描かれるシリアスなバトルシーンが当時の小中学生から人気を集めた。


●「美食」が世界的な流行となっている「グルメ時代」を舞台に、「美食屋」の主人公が未知の食材を求めて冒険する漫画『トリコ』。「週刊少年ジャンプ」で連載され、現在テレビアニメも放送中の言わずと知れた人気作品だ。

そんな大ヒット漫画を手掛ける作者の島袋光年氏には、前代未聞の理由で連載を打ち切られた過去がある。その作品が、島袋氏のデビュー作にして、2001年小学館漫画賞児童部門にも輝いたバトルギャグ漫画『世紀末リーダー伝たけし!』だ。

“リーダー的存在” である小学1年生「たけし」を主人公とするこの作品は、作者の天才的なギャグセンスと王道バトル漫画のエッセンスが人気を博し、当時の小中学生から絶大な支持を集めた。

ところが連載が最終章に差し掛かった2002年8月、たけしを愛してやまない子どもたちの耳に衝撃的なニュースが飛び込んでくる。なんと、作者・島袋光年氏が児童買春容疑で逮捕されたのだ。

逮捕後、『世紀末リーダー伝たけし!』は未完のまま連載打ち切りが決定。連載を楽しみにしていた子どもたちの多くが肩を落としたのは言うまでもない。

それほど衝撃的な打ち切り劇を演じた『世紀末リーダー伝たけし!』ではあるが、実は作者の復帰後に「スーパージャンプ」で連載が再開され、無事に完結している。

打ち切り当時には「島袋の野郎、わが家の食卓に気まずい風を吹かせやがって……」と失望していた筆者も、完結編が出るとすぐに本屋へ直行。夢中になって読破してしまった。

下ネタ満載のくだらないギャグと劇画タッチで描かれるシリアスなバトルシーンは、大人になった今読んでも、やはり引き込まれる。「たけし」「トリコ」と大ヒット作を連発し、名実ともに完全復活を果たした島袋氏の漫画家としての才能の高さは疑うべくもない。

そんないわく付きの名作『世紀末リーダー伝たけし!』は、現在「ジャンプBOOKストア」にて無料で立ち読みができる。

マンガの神様の苦い挫折 手塚治虫が描いた幻の打ち切り作品

<『どろろ』作品のあらすじ>
戦国の世を舞台に、体の48カ所を奪われた主人公「百鬼丸」とドロボウの少年「どろろ」が魔物退治の旅をする妖怪マンガ。

1967年より「週刊少年サンデー」で連載が開始され、1969年にはアニメ放送が開始された。


●『鉄腕アトム』や『ブラックジャック』を始め、数多くの名作を残した手塚治虫氏。今やマンガ界で神とあがめられる氏ではあるが、その作家人生は必ずしも順風に満ちていたわけではない。

たとえば1967年より「週刊少年サンデー」で連載が開始された『どろろ』は、輝かしい経歴を持つ手塚氏にとっての数少ない「挫折」を象徴する作品だ。

戦国の世を舞台に、体の48カ所を奪われた主人公「百鬼丸」とドロボウの少年「どろろ」が魔物退治の旅をするこの作品は、陰惨で暗いストーリーが少年誌の読者に受け入れられず、連載開始後わずか1年足らずで打ち切りとなった。

その後、アニメ放送の決定に伴って掲載誌を移して連載が再開されたものの、なぜか「すべての魔物を倒す」という主人公の目的は完遂されないまま終了。読者にとっては、なんとも歯切れの悪い幕切れを迎えた。

しかし、そんな謎多き打ち切り作品「どろろ」には、手塚氏の人間らしさを感じさせる意外なエピソードが残されている。

「手塚治虫漫画全集」第150巻のあとがきによると、なんでもこの作品は手塚氏の負けず嫌いな性格がきっかけで生まれた作品だったのだとか。

『どろろ』の連載が開始された1967年は、水木しげる氏による妖怪マンガ『墓場鬼太郎』が世間から注目を集めていた時期。負けん気の強い手塚氏は「妖怪マンガなら俺にだって描けるぞ!」と息巻いて『どろろ』の執筆に踏み切ったそうだ。

そんな背景を考えると、物語を完結せずに連載を終えたのは、負けず嫌いな手塚氏なりの水木氏への「敗北宣言」だったのかもしれない。

なお、『どろろ』は現在「ebookjapan」にて無料で立ち読みが可能。マンガの神様が描く一世一代の妖怪マンガは、打ち切り作品とは言え、読み応え十分の良作だ。

■掲載誌が突如休刊……。理不尽すぎる打ち切りからの大逆転

<『トライガン』『トライガン・マキシマム』作品のあらすじ>
荒廃した砂漠の惑星を舞台に、伝説のガンマン「ヴァッシュ・ザ・スタンピード」が人外の宿敵たちと死闘を繰り広げるガンアクション漫画。

1998年よりアニメが放送され、深夜アニメの先駆けとして人気を集めた。2010年には劇場版アニメも公開されている。


●毎号楽しみにしていた作品が突如打ち切りになった時のショックは計り知れない。それはマンガ好きであれば、誰しも一度は経験する通過儀礼とも言えるだろう。

しかし、マンガを掲載している雑誌自体が休刊になった時の衝撃は、その遥か上を行く。

休刊の告知と挨拶は一切なし、連載作品はすべて強制的に打ち切り……。そんな理不尽過ぎる休刊に巻き込まれた作品のひとつが、内藤泰弘氏が手掛けるガンアクション漫画『トライガン』だ。

荒廃した砂漠の惑星を舞台に、伝説のガンマン「ヴァッシュ・ザ・スタンピード」が人外の宿敵たちと死闘を繰り広げる本作は、ストーリーが佳境を迎えた1997年1月、掲載誌「月刊キャプテン」の唐突な休刊により連載打ち切りとなってしまった。この強引な打ち切りには、読者はもちろん、作者自身も開いた口が塞がらなかったことだろう。

しかし、多くの読者からの支持が後押しし『トライガン』は掲載誌移籍という異例の形で連載を再開することが決定。同年の10月には『トライガン・マキシマム』と作品名をリニューアルして連載が開始された。

その後はテレビ東京でアニメ化が決まり、深夜アニメの先駆けとしてファンの裾野を拡大。連載終了後には劇場版が公開されるほどの人気作となったのだから驚きだ。

作中に登場する不死身の主人公ヴァッシュさながらの逆転劇を演じた本作は、少年時代の筆者にネバーギブアップの精神を叩き込んでくれた傑作だ。『トライガン』、『トライガン・マキシマム』の無料の立ち読みは「ebookjapan」から。

■完結間近でまさかの打ち切り! その時、作者がとった行動は……!?

<『シャーマンキング』作品のあらすじ>
霊能力者の少年「麻倉葉」が、全知全能の力を持つ「シャーマンキング」を目指して戦いを繰り広げるバトル漫画。

1998年より「週刊少年ジャンプ」で連載が開始され、2001年にはアニメ化もされている。

<『シャーマンキングFLOWERS』作品のあらすじ>
2012年より「ジャンプ改」で連載がスタートした「シャーマンキング」の続編。

前作の主人公である「麻倉葉」の息子「麻倉花」を主人公に、新世代のシャーマンたちによる戦いが繰り広げられる。単行本は2014年2月現在で4巻まで発売されている。


●『世紀末リーダー伝たけし!』や『トライガン』のほかにも、連載打ち切り後に発表の場を変えて起死回生を遂げた作品は少なくない。例えば、1998年より「週刊少年ジャンプ」で連載されたバトル漫画『シャーマンキング』もそんな作品のひとつだ。

霊能力者の少年「麻倉葉」が、全知全能の力を持つ「シャーマンキング」を目指して戦いを繰り広げる本作は、少年マンガでありながら主要登場人物がバタバタと死にまくる異色作だ(しかも割とあっさり生き返る)。そんな「よく言えば斬新、悪く言えば何でもあり」な世界観がウケたのか、連載中盤ごろまではアニメやゲームにもなるほどの人気作品だった。

ところが、アニメの終了とともに原作の人気が低迷し始め、物語がクライマックスに差し掛かった連載末期、ついに打ち切りが決定する。「このマンガ何でもありだなぁ……」とツッコミを入れながら連載を楽しみにしていた読者の多くは、このクライマックス間近の打ち切り劇に“商業誌の無慈悲”を垣間見たことだろう。作者の武井宏之氏もさぞかし無念だったようで、当時発売されたコミックスの最終巻には、物語の「未完」を意味する皮肉として「みかん」のイラストが描かれている。

しかし武井氏はその後、われわれ読者にうれしいサプライズを届けてくれることになる。何と連載打ち切り後に約380ページもの加筆修正を行ない、『シャーマンキング完全版』として発表することで物語を完結させたのだ。完全版の最終回は相変わらず「何でもあり」な展開だったが(これは筆者の私見)、打ち切りに屈せずに作品にけじめをつけてくれたことが、ファンにとっては何よりうれしい。

さらに作者の武井氏は、現在「ジャンプ改」にて続編の『シャーマンキングFLOWERS』を連載しており、そちらの作品からも目が離せない。『シャーマンキング』、『シャーマンキングFLOWERS』は共に「ジャンプBOOKストア」で立ち読みが可能。連載マンガの常識を打ち破り、「何でもあり」を最後まで貫いた異端作は、マンガ好きなら一読しておいて損はないだろう。


打ち切られてなお、多くの読者に愛され続ける名作マンガ。それらの作品の背景には、打ち切りの逆境を乗り越えんとする漫画家の意地とプライドが見え隠れする。
あなたもそんな名作の数々を電子書籍で楽しんでみてはいかがだろうか。