■繰り返しのテクニック

私たちが宣伝する目的は、心をつかんで商品などの認知を広め、最終的には購入など「行動を起こしてもらう」ことにある。

たとえば「宣伝がうまかった」人間に、ナチスドイツの宣伝相ゲッペルスがあげられる。彼らが行ったのは戦時中のプロパガンダであり、一義的な論理展開による「真理の押しつけ」の様相を呈する。だからそのまま鵜呑みにはできないだろうし、今の情報双方向時代には相反する(まあ、逆に情報化社会だからこそ、ネットなど介して行われているともいえるかもしれないけれど……)。ともあれ、プロパガンダを持ち上げるわけではなく、その伝え方のコツだけは真似て「応用」する価値はある。

彼は「大衆は、もっとも馴れ親しんでいる情報を真実と呼ぶ」という考えに基づいて、イメージやスローガンを繰り返すことに力を注いでいた。しかも、誰にでもわかりやすい言葉で、だ。

話をする際に、その中で一番話がわからなそうな人物を想定し、その人物が理解できるような表現に噛み砕いたそうだ。たとえば、子どもにわかるなら、おおよその大人は理解する。もちろん、幼児語を使ったり、まるでひらがなだけで話したりするようなイメージではない。つまりは、インパクトのある一言を伝えたら、誰でもわかるよう言葉で噛み砕いた説明を加えて理解させ、受け入れてもらうということだ。

たとえば、人に界面活性剤の働きを伝えるならば、「界面活性剤の『乳化分散作用』により汚れが精練液中に安定に分散する」と表現するよりも、「界面活性剤は汚れを分解する、つまり“汚れが落ちる”」と表現したほうが、頭にスッと入ってくる。

■慣れ親しむと、より安心感を抱く

わかりやすい言葉で繰り返されることで、その言葉に慣れ親しみ、その事実を受け入れやすくなる。CMなどで簡明な形で繰り返し主張し続けることで、その製品名に慣れ、聞きなれたもののほうにより安心感を抱くのと同じ効果が見込まれる。こうして、聞き手の心を引きつけていく。

ヒトラーは彼の考えを受けて「宣伝効果のほとんどは、人々の感情に訴えかけるべきであり、いわゆる知性に対して訴えかける部分は最少にすべきだ」「宣伝を効果的にするには、要点を絞り、大衆の最後の一人がスローガンの意味するところを理解できるまでにそのスローガンを繰り返し続けることである」(*)としている。

応用すべきは「知性に訴えかける部分は最少に」「要点を絞る」「最後のひとりまで理解する」そして、「繰り返す」こと。つまり、「誰にでもわかりやすく、ポイントを明確にして、繰り返し伝える」という部分だ。

ただし、情報を押し付けるのではなく、数字など“客観的な事実”もしっかり盛り込むことが、一番のキモになる。つまり、「これで汚れはXX%落ちる」という事実。「客観的なデータ」を持ち込むことで、絶対的な主張を押し付けるのではなく、聞き手が自ら判断する「自由意志」に働きかけることができ、聞き手の自己判断につなげられるからだ。

■わかりやすく、口当たりよく、ゴロがいい

日本では、小泉純一郎元首相が短く表現上手とされてきた。政策のよし悪しはともかくとして、歯切れがよく明快な言葉には学ぶところがある。「友愛」では曖昧模糊として何を指すのか定かではないが、変革の意志を示す「自民党をぶっ壊す」のスローガンをはじめとする言葉は短く、わかりやすい。

ここにあるのは「何を、どうする」「何が、変わる」といった、具体的な内容の提示であり、キレのいいフレーズだ。聞き手の記憶に残したいフレーズ、機能などは簡単で覚えやすい言葉で、ゴロ感よく複数回繰りかえす。そして、聞き手も口にしたくなるような“口当たり”とでもいうような言葉は、結果として耳に残っているというわけだ。

「誰にでもわかりやすく、ポイントを明確に、繰り返し、キレよく伝える」。つまりは、「界面活性剤で、汚れは劇的に落ちる」であり、「自民党をぶっ壊す」――何がどうなるか、である。こうしたわかりやすく聞きやすい表現を使うことで、小気味よく、結果として記憶に残る伝え方となっていくのだ。

[参考資料]
*『プロパガンダー広告・政治宣伝のからくりを見抜く』(A.プラトカニス/E.アロンソン貯 社旗行動研究会訳 誠信書房)

(上野陽子=文)