[画像] 東北大、スズテルル半導体が新タイプのトポロジカル物質であることを解明

東北大学(東北大)は10月1日、スズテルル(SnTe)半導体が、新しいタイプのトポロジカル物質であることを解明したと発表した。

同成果は、同大 大学院理学研究科 佐藤宇史准教授、原子分子材料科学高等研究機構 高橋隆教授、大阪大学産業科学研究所 安藤陽一教授らによるもの。

詳細は、英国科学雑誌「Nature Physics」オンライン版に9月30日付で公開された。

近年、トポロジカル絶縁体と呼ばれる、従来の物質とは異なる新しい状態を持つ物質が存在することが明らかになり、話題になっている。

この物質は、内部は電流を流さない絶縁体なのに対し、表面は特殊な金属状態が現われる。

その表面においては、電子がディラック錐と呼ばれる状態を形成して質量ゼロのディラック粒子として振る舞い、磁石の性質であるスピンの向きをそろえて動き回っていると考えられている。

この表面ディラック電子は、物質内部の電子よりも格段に高速で、かつ不純物に邪魔されずに動くという特性を持っており、その起源が物質中の電子状態が持つ位相幾何学的(トポロジカル)な性質にあると考えられている。

現在、トポロジカル絶縁体を利用した次世代の超低消費電力デバイスや量子コンピュータへの応用研究が世界中で急ピッチに進められており、新しい機能物質として注目されているが、無数に存在する物質の中からどのようにして普通の物質にはないトポロジー的性質を持った物質を見つけるかが課題となっている。

物質の種類を整理するときには、対称性が手掛かりとなる。

これまで発見されたトポロジカル絶縁体は、時間反転対称性を持つ物質を中心に探索が進められてきたが、時間反転対称性以外に、物質が鏡面対称性を持つときにトポロジカルな性質が発現することが理論的に予言されていた。

この対称性が結晶性に由来することからトポロジカルクリスタル絶縁体と命名されたこの物質では、トポロジカル絶縁体とは異なった新しい物性や機能が現れることが期待されている。

トポロジカル物質の探索に大きな広がりが生まれるという観点からも、実際にそのような物質を発見することが課題となっていた。

今回、研究グループは、高い熱電性能を有することから40年以上前から研究されているIV-VI族狭ギャップ半導体であるスズテルル(SnTe)の高品質単結晶の育成に成功した。

さらに、外部光電効果を利用した角度分解光電子分光という手法を用いて、SnTeから電子を直接引き出して、そのエネルギー状態を高精度で調べた結果、通常のトポロジカル絶縁体とは異なり、表面においてディラック錐が2つ折り重なった二重ディラック錐エネルギー状態を持つことがわかった。

この特殊な状態は、表面金属電子状態が結晶の鏡面対称性によって保護されてはじめて実現することから、今回の実験により、SnTeが新種のトポロジカル物質、つまりトポロジカルクリスタル絶縁体であることが明らかになったという。

今回の成果は、次世代省電力デバイスや超高速コンピュータへの応用が進められているトポロジカル物質のカテゴリーの中で、トポロジカル絶縁体の他にも新型のトポロジカル物質が存在することをはじめて実験的に示したものとなった。

今後、トポロジカルクリスタル絶縁体の表面ディラック電子を制御することで、熱電素子、光検出器、スピントロニクスデバイスなどの広範囲な産業応用が期待されると研究グループは説明するほか、トポロジカルクリスタル絶縁体に留まらず、さらに異なるタイプの新型トポロジカル物質の開拓に大きく道を拓くものとコメントしている。



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