彼自身に話を聞いても「まだ19歳ですから」といった余裕や甘えは一切ない。プロとして1年、1年が勝負で、目の前の試合のメンバーに入ること、そこに出て結果を残すことに飢えている。高卒の18歳でプロ入りした選手たちに対してまだまだ「2、3年は修業期間」という見方をする風潮がある日本にあって、彼のような存在は凝り固まった古い価値観をぶち壊してくれると信じている。
 
 実際、町田のサッカーや出場選手のレベルを客観的に分析すると、19歳の幸野と三鬼海(みき・かい、右サイドバック)の二人はJ2レベルでも突出している。彼らのボールフィーリングは他の選手よりも鋭く、プレッシャーに感じる距離感が短い。だからこそ、アルディレス監督が彼ら二人を主軸にしてサッカーを構築すれば、もっといいサッカーを展開して、もっといい結果を得られると私は確信している。
 
 日本では技術よりも年齢信仰のようなものがあり、J2クラブはどこも新卒の大学生やJ1で戦力外となったベテラン選手を安い年俸で獲得して平均年齢が20代後半のチーム構成となっている。幸野や三鬼のような10代の選手が町田で、J2で活躍することは、これまた何となく日本に蔓延するベテラン信仰に一石を投じることになる。
 
 選手にとって本当に大切なことは、年齢でも経験でもなく、高い基礎技術と鋭利なボールフィーリング。それを身に付けていれば、いわゆるポゼッションサッカーと呼ばれるスタイルで、ボール運びと同時に試合運びを安定化させることができ、勝利の確率を高めることが可能となる。そういうスタイルで結果を残すチームが現れれば、今のように同じ顔ぶれのベテラン監督ばかりが並ぶJリーグの監督人事もいい意味で変わっていくだろう。
 
 「若手だから抜擢する」のではなく、「基礎技術が高く、将来性ある若手だから抜擢する」文化が特にJ2で生まれてくれば、J1レベルではまだ早熟だけれど将来的には間違いなくJ1や日本代表クラスのタレントとなる選手たちがJ2でもっと躍動し始めるだろう。
 
 そういうスター候補生たちを試合で使いながら育てることができるようになれば、J2主導で「育てて売る」アイディアや仕組みがもっと創出されてくるはず。以前から主張している通り、J2にはアンダーエイジ枠を数枠設けて、例えば「21歳以下の選手を1試合で2名以上使う」といったルールを制度化してもいいと考えている。
 
 今のように基礎技術が低く、将来性のない20代後半の平均年齢の選手たちのJ2のゲームには、興行としての魅力も将来性も乏しいのだから。鳥取戦での幸野志有人の活躍というのは、J2というリーグの存在意義やJ2クラブの目指すべき方向性までも考えさせるものだった。


2012年08月23日配信のメルマガより抜粋。メルマガ本文では、この5倍近いボリュームで濃密なコンテンツを取り揃えています。ぜひご購読ください。※