しかし、逆に疲れを意識し、終盤での失速を嫌い、前半から飛ばせなかったことで、ドルトムントの一発の威力が増したようにも思えた。

 長いリハビリを終えて、チームに復帰した香川は、シーズン当初はコンディションが上がらずに苦しんでいた。試合に勝っても、自身のプレーの出来に納得がいかず、吹っ切れない思いを抱えているようだった。しかし、体調が回復し、試合勘を取り戻すと生き生きと輝き、得点も量産する。
 そして、優勝争いというプレッシャーを初めて体験しながら、彼は成長した。
「リーグ終盤のバイエルン戦を戦い、次もシャルケというタフな相手。メンタルとフィジカルのコンディションをいいところに持っていく難しさを感じました。今日は100%じゃない中で試合をやらなくちゃいけないというのは苦しかったけど、投げ出すことにはいかないので、自分自身がやることをね、最大限やろうと、心がけた。シンプルな攻撃して、守備でもがんばる。ただ勝つことだけ、勝ちきることだけを意識していました」
 焦れずに耐え抜く力を身につけたのはドルトムントだけではなく、香川自身も同じだったのかもしれない。

 ドイツでは「香川のもとにマンチェスター・ユナイテッドからのオファーが届く」と盛んに報じられているが、ロンドン在住の日本人記者は「イングランドでは香川獲得という話はまだ出ていない」と、ドイツメディアの盛り上がりにクビをかしげていた。
 トップクラブで活躍するアタッカーの多くは、大一番、重要なゲームで結果を残す、勝負強さが求められる。そういう意味で、この2連戦で結果を残せなかった香川への評価は厳しくなるだろうというジャーナリストもいる。
 確かに2005年にオランダのPSVからマンチェスター・ユナイテッドへ加入した朴智星(パク・チソン)は、PSV時代の2004−05シーズンCL準決勝のミラン戦でゴールを決めている。香川はCLや昨季のELで結果が残せていないのも事実だ。どちらもグループリーグで敗退した。それでも、20代半ばで移籍した朴に比べ、香川はまだ21歳。実績以上に可能性に賭ける価値がある年齢だ。

 優勝決定後、香川の周辺は騒がしさを増すだろう。契約延長のオファーをするドルトムントに対する彼の決断に、注目が集まっている。
 もしも届いているとすれば、マンチェスター・ユナイテッドからのオファーに魅力を感じない選手は少ないだろう。それでも、ドルトムントに留まり、来季CLで活躍し、リーグ3連覇を達成後、もしくはW杯で大きな結果を残したのちに、念願のスペイン行きを目指すというのも悪くはない。

 自身の価値を上げるためにも、次節のボルシアMG戦ではゴールを決めて、チームを優勝へ導きたいに違いない。しかし、それは簡単なことではない。でもだからこそ、挑戦する意味がある。長いシーズンの疲労を抱えながらも、結果を残すことができれば、香川はたくましく、タフなファイターへと成長できるはずだから。