「本来ならば、国論を二分するような問題については、賛成派と反対派の双方の主張を紹介するのが政府広報の最低限のルールだ。ところが今回は、広告代理店のテクニックを駆使し一方的な意見を刷り込もうとしたのではないか。例えば2ページ目の『伝えるべき要素3 懸念点についての情報収集状況』には、農業に加えて自動車や保険分野などの多くの分野におけるTPPへの懸念を払拭するノウハウが書いてあるのだと思う」
こうした疑問に対して、政府広報室の担当者はこう答える。
――黒塗りの理由は?
政府広報室「法人(本件では広告会社)の正当な利益を損なう恐れがあると判断。企画書のデザインや分析などはノウハウを含んでいて、公開すると企業の利益を損ねかねない」
――新聞広告案が並んだ最後の3ページ分は公表が前提。企業の利益を損ねるとは考えにくい。
政府広報室「広告を出せば国民の目に触れるが、今はまだ企画案の段階。公表前提の文書であっても掲載前は公開しないのが妥当と判断。情報開示のルール、過去の事例に則(のっと)って黒塗りにしただけです」
――税金で作ったものであれば、開示されるべきではないか。
政府広報室「税金で作らせたものではない。ここまでは各社負担である」
要は「まだ未完成のものだし、税金も投入していないから見せる必要はない」ということだ。だが、こうした姿勢に慎重派は反発。「TPPを慎重に考える会」会長の山田正彦・前農水大臣は、「食の安全は守られるとか、国民健康保険制度には悪影響を与えないとか、TPP交渉参加を一方的に推進するような内容が盛り込まれていたのではないか。党の役員会にも諮(はか)り、徹底的に追及する」と意気込めば、川内議員も、「『結果として新聞広告を打っていないのだから黒塗りでいい』というのは傲慢(ごうまん)な対応だ」と、怒りを露(あらわ)にした。
これに対し内閣府大臣官房は、「慎重派の意見や議論を踏まえて、政府広報の内容を検討中」「政府民主三役会議で『党側の了承を得ないと政府広報が打てないわけではない』という意見も出た」と、掲載の機会をうかがう。
ともあれ、TPPに関して日本政府が国民に見せたくない怪しげな動きをしているということは間違いないので、要注意だ。
(取材・文/横田 一)
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