■これは東電の黒塗り文書と同じだ!

「内閣府がTPP(環太平洋経済連携協定)に関しての新聞広告案を作ったという。その案の情報開示を求めたら、また黒塗りの文書が出てきました。東京電力に福島第一原発の事故時運転操作マニュアル(手順書)を請求したら、黒塗りで出されてきたのと同じ状況ですね」

 こう話すのは、前・衆議院科学技術・イノベーション推進特別委員長の川内博史議員。同委員会は前出の黒塗りの手順書を全面公開させるのに尽力、東電がウソをついていたことを明らかにしたが、まさに“第2の黒塗り手順書”と呼びたくなる文書が出てきたのだ。

 まず、TPPをめぐる現在の状況を整理しておきたい。日本政府はTPP交渉への参加を熱望する一方、国会議員、そして国民の少なくない数が激烈に交渉への参加反対を主張している。いわば国論を二分している状況にある。そこで作られたのが問題の文書で、タイトルは「TPP交渉参加に向けた協議に関する広報 平成23年度最重要・重要広報テーマ(新規)に係る政府広報」。広告代理店トップの電通が作成、1月13日に内閣府大臣官房政府広報室に提出されたものだった。政府広報室は作成の経緯をこう話す。

「(昨年)11月11日、野田総理は『TPP交渉参加に向けた関係国との協議に入る』『国民的な議論を経た上で(交渉参加するか否かの)結論を得る』ことを表明しました。そこで今後、TPPに関する情報を国民の皆さまに提供、十分に国民的な議論を行なう観点から、新聞広告を2月から3月に打つことになりました。概算経費の上限は総額4億円。企画競争入札を行ない、1月26日、応募した3社の中から電通が選ばれました」

 しかし、この動きに対しTPP反対派の三宅雪子衆議院議員らから「閣議決定をしていないのに政府広報をするのは不適切で、時期尚早」「十分な説明もなく突然出てきた。唐突すぎる」といった異論が噴出し、掲載延期となった。2月3日の民主党経済連携プロジェクトチームの会合でのことだ。

 ここから川内議員は前述のように情報開示を要求した。

「この新聞広告案には政府のTPPに対する姿勢が表現されている。だから、民主党議員みんなで決めた『TPPに対しては慎重に』という方針を忠実に反映しているのかをチェックしないといけないわけです」

 これに対し政府広報室は、一度は情報開示を拒否。納得しない川内議員は「開示できない部分があるのなら、そこを黒塗りにしてもいいから文書自体は公開すべきだ」と求めたところ、要求から1ヵ月ほどたった3月5日、やっとA3カラー/全13ページの文書を出してきた。しかし、表紙以降のページをめくると内容はほとんどが黒塗り状態。後半は「新聞広報表現案 第1回/モノクロ全15段」などといったサンプル紹介であったが、まったく判読不能。特に最後の3ページは「A案」「B案」「C案」の二文字以外は全面黒塗りだった。

■偏った内容ならば世論誘導だ!

 政府はなぜ黒塗りにして情報開示を拒むのか。審議会の議事録公開などに取り組む「環境行政改革フォーラム」の鷹取敦事務局長は首を傾(かし)げた。

「税金の使途をチェックするのは国会議員の役割だから、川内氏の要求は妥当なものです。変な内容で広告を打ったら税金のムダだし、偏った内容ならば世論誘導となる。一方、1ヵ月もかけて黒塗りの文書を出してくるのは、官僚の常套(じょうとう)手段である『引き延ばし戦術』だろう。何よりも、公表が前提の新聞広告案を黒塗りにする理由があるとは考えられない」

 安倍政権時代、電通のタウンミーティング問題を徹底追及した保坂展人前衆議院議員(現・世田谷区長)もこう話す。