昨年のセ・リーグ新人王に輝いた剛腕投手が、文字どおり「ひと回り大きくなって」2年目のシーズンを迎えようとしている。猛烈な向上心と芯の強さを持った巨人の“真のエース”候補、澤村拓一にキャンプ地でじっくりと話を聞いた。

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【江夏】まず、初めまして。

【澤村】初めまして。よろしくお願いします。

【江夏】キャンプも終盤にきているけれど、調子はどう?

【澤村】正直、今の調子のままではシーズンには入れないですね。まだ40パーセントくらいの状態かなと思います。

【江夏】そんなに低いか(笑)。でも、この時期からシーズンを考えなくてもいいだろう。今は自分なりに余裕を感じる部分もあるだろうしね。去年はある程度、無我夢中でやったと思うけど、今年はその経験を生かせるんだから。

【澤村】言い方は悪いかもしれませんが、去年は好き勝手やらせてもらってました。ルーキーという立場だったので、コーチの方も、言いたくてもあえて言わないことがあったかもしれませんし、チームがどうこうじゃなく、自分がどうやるか、どれだけ勝てるかということだけに集中していました。でも、今年は2年目なので、なんとか先頭に立って引っ張っていけるようになりたいです。

【江夏】そうは言うけど、あなたは去年もチームの危機を何度か救ってきた。そのあたりは自信になったんじゃない?

【澤村】はい、去年キャンプに入った頃よりは。

【江夏】去年の成績を振り返ってみると、11勝11敗。味方打線の援護に恵まれず、なかなか勝ち星がつかないときもあったよね。ただ、チームで唯一、ローテーションを一度も崩さずに29試合、200イニング(注:新人の200イニング達成は、セ・リーグでは1967年の江夏氏以来44年ぶり)を投げて防御率は2.03。自分ではこの数字をどう思う?

【澤村】僕のなかでは「プラスマイナスゼロで貯金をつくれていないピッチャー」ですね。去年の内海さんはひとりで13も貯金をつくったので、理想はそういうピッチャーです。

【江夏】でもね、なんぼいいピッチングをしても、打線との絡みがうまくいかないと貯金もつくれない。実際にそういう試合が続いた時期、どうだった? まだ1年目で遠慮もあって、「もっと打ってくれたらなあ」ということも言えなかったわな。

【澤村】無難に勝ち続けていたら、もしかしたら天狗になって「俺はすごいんだぜ」ってうぬぼれていたかもしれないです。逆に、勝てない経験を1年目からさせてもらったのはよかったと思います。

【江夏】今から振り返れば、そういうことも言える。でも、勝てないときは苦しかったよね?

【澤村】はい。ただ、僕も2年、3年、4年とやっていくなかで、いつか必ず巨人というチームを背負う立場になりたい、ならなくちゃいけないと思っているので、そうなったときに「1年目のなかなか勝てない時期がありがたかったな」と思えるようにしたいです。

■“外車のエンジン”を体に積みたかった

【江夏】おお〜(笑)。そこまで考えられるのは立派だし、口に出せるのも立派なもんだよ。そして、最終的にはあれだけの数字を残して、一生に一度しかチャンスのない新人王という賞をもらった。これは強運なのか、それとも力なのか。どっちだろう?

【澤村】強運ではないです。もともと勝負運に恵まれているほうじゃないので、どちらかというと、本当に自分の力で勝たないと。

【江夏】そうか。周りから見ていると、運のあるなしは別にして、芯の強いピッチャーだなという印象を受けるよ。

【澤村】ありがとうございます。

【江夏】そういえば、昨年12月に結婚されて、私生活もちょっと変わってきたよね?