それは、人としてごく自然なことともいえる。

しかし、球団にも経営というものがある。

選手は杉内だけではないのである。

成績を残した選手や、将来の主力と期待する選手には、それなりの年俸を支払わなくてはならない。

4年という長期契約を結ぶことだけでも球団にとっては大きなリスク。

さらに年俸は球界最高峰となる高額で成績に応じた変動も無し。

こういう契約を1度認めれば、これは慣例となり、次々にそんな契約を求める選手が出てくるだろう。

そうなればFA制度などは形だけ、赤字を出していないという程度の資金力では、FA選手の獲得は出来ず、戦力の偏りが今以上に進んでしまうだろうし、プロ野球の不人気が叫ばれる昨今では、球団維持も難しくなってくるだろう。

球団と選手、球団が主で選手が従である必要はない。

対等であるべきである。

これまで、交渉の中で球団側が「幹部候補生、将来の監督」という条件を提示したなどという報道は耳にするが、選手が球団に終身雇用を迫るというのは聞いたことがない。

聞いたことがないことは出来ない、やるべきではないというつもりはないが、「杉内には45歳までやって、250勝するという目標がある。この4年間で終わるよ、というのは忍びない。野球人生を巨人で全うできる環境、そういう覚悟がわかるように示してほしい」こんな勝手な要求はない。

45歳まで、250勝するというのは勝手な目標。

現在31歳の杉内だが、来年故障しないという保障はどこにもない。

本人がやると言ってるのだから、それに応えろ。

人生設計を31歳で考えているということなのだろう。

確かに大切なことだが、野球人として、ここまで安定した条件が通れば、何を目標に野球をするのだろう。

やってもやらなくてももらえる額は同じ。

故障しない程度に無理せず投げておけばそれでOKという気持ちが芽生えないとも限らない。

もちろん、与えられた役割を全力で全うするという気持ちでは臨むのだろうが、ここまで安定を求められると1人の野球ファンとして魅力を感じない選手となる。

こんな条件を、ジャイアンツは飲むのだろうか。

自軍が勝てばいいという狭い考えは抜きに、球界の盟主を自負するのであれば、交渉打ち切りくらいの強い覚悟で望んでもいいのではないだろうか。

入団から引退、そしてその後の生活まで保障する、そんなことがまかり通れば、野球界は、ファンから遠く離れた世界のものになってしまうのではないだろうか。

まだ交渉の段階、条件を吹っ掛けてくるのは常套手段かもしれないが、そんな考えを持っている選手は、12球団が見向きもしない、手を出さないという現実を見せつけ、目を覚まさせるのも野球界の責任ではないだろうか。