■さいたまダービーを前にして、今季最悪のチーム状態

J1残留を争う浦和とのさいたまダービーを前に、大宮のチーム状態は今季最悪と言ってもいいだろう。ナビスコカップ2回戦第2戦で浦和に敗れ、大会敗退を早々に決めてしまうと、中2日でのJ1リーグ戦第28節で最下位福岡に勝点3を献上した。続く天皇杯2回戦では、J1チームとして史上2度目となる大学生相手の敗戦という体たらく。各々異なる大会ではあるが公式戦3連敗を喫し、どん底にあえいでいる。

惜しくも勝てず結果として3連敗だった、というのならまだ救われるが、内容的にも芳しくない。そこそこのチャンスは作れているが、本当に決定的と言えるものは少ないし、そもそもゴールが奪えていない。3連敗中の得点は、ナビスコカップでの金澤慎のミドルシュートと、天皇杯での上田康太のFKのみ。組織で崩して決めたゴール、というといつまで遡らなければならないだろうか。「なんとなく攻めてなんとなくシュートまでいけるので、『このぐらいでいいのかな』という慢心がある」。5月22日、J1リーグ戦第12節の清水戦後、鈴木監督は選手の心の内をこう評したが、それから半年近く経ち、もうシーズン終盤だというのに、そうしたメンタル面の問題を克服できていない。

一方で、第27節の柏戦のような素晴らしい快勝を見せたりもする。優勝を争う強豪相手に見せた、統制の取れた連動性あるプレッシングは、個々の選手はもとより、組織としても十分に、いや十二分に力はあるということを改めて満天下に知らしめた。

■すべてはメンタルの問題

すべてはメンタル、気の持ちようであろう。「ここで勝てば楽になる、という試合には勝てないが、絶対に落とせない試合は絶対に勝つ」というのが巷間言われている大宮評。柏戦の前日、甲府がG大阪を下し勝点差2まで詰め寄ってきていた。もし柏に敗れていたら、一気に降格圏にまで飲み込まれかねない――そうした危機感が選手を突き動かしたことは、想像に難くない。逆に、甲府が川崎に敗れたという結果を知って臨んだ前節の福岡戦は、仮に負けても勝点差は詰まらない、という安堵感があったのか。「柏戦に比べて気持ちが入っていなかったかもしれない」と青木が悔しそうに試合を振り返ったのが印象的だ。

ならば、背水の陣で臨む次節のさいたまダービーは精神力の強さが期待できる。敗れれば勝点で浦和に並ばれ、得失点差で順位をひっくり返される。そのままズルズルと引きずり、残留確定を最終節での甲府との対戦へ持ち越すことだけは絶対に避けなければいけない。もちろん浦和は、大宮と同じように、いやそれ以上の闘争心で向かってくるだろう。ナビスコカップファイナル進出を決め、チームとしての勢いにも差がある。それでも、J1残留へ向け、まずこの試合には絶対に勝たなければならない。それだけ重要な一戦だ。

■勝ち点を積み上げていくために

では、この浦和戦を含め、今後の6試合…いやいや、甲府戦までの残り5試合でどのように勝点を積み上げていくのか。ヒントはやはり、柏戦に隠されている。

1つは、ラファエルのポストプレーを起点とした中盤からの飛び出し。金英權のロングパスをヘディングで落とし、拾った東慶悟とのコンビネーションでラファエルが沈めた。今季リーグ戦ホーム初勝利となった磐田戦でも、先制点は上田のロングパスをラファエルが頭で落とし、最後は東が深い切り返しから決めた。高さ、そして懐の深さと巧みな足下によるキープ力はJ1でも屈指。まず失うことはないだけに、味方は安心して前へ出ていける。効果的にラファエルを利用することが重要だ。

もう1つは、連動したプレッシングからのショートカウンター。柏戦では、奪ってから素早くサイドに展開し、クロスで相手ゴールを脅かした。「ショート」ではなかったが、とどめとなった3点目は東を信じて飛び出していった青木の殊勲が光った。浦和戦後のカードは、名古屋、川崎、鹿島、広島と続く。いずれも強豪揃いだが、逆に言えば引きこもって守備を固めるようなチームは見当たらない。ポゼッションを捨てろ、と言うわけではないが、セットプレーも含めた「飛び道具」を効果的に利用することで、勝利を呼び込みたい。