■リーグ戦勝ちなし、順位も8位に下がった7月

「辛抱させられた月だった」、7月最後の公式戦である第19節柏戦を終えた仙台・手倉森誠監督は記者会見でこう7月を振り返った。
当初手倉森監督は「7月は攻勢の月にしたい」と上位争いへの生き残りを狙っていた。7月は震災の影響で公式戦が7試合に増え、そのうち4試合をホームでできるため、ホームゲームを確実に勝利し、ACL圏内にとどまり続けようとした。

7月2日第2節名古屋戦は梁勇基のゴールで先制するも、後半角田誠のオウンゴールで失点し、1-1のドロー。続く9日第3節柏戦は、首位攻防にふさわしい激しい攻防のゲームで互角の戦いを演じたが、アディショナルタイムに澤昌克にゴールを許し0-1で惜しくも敗れた。13日第4節清水戦は何度も決定的場面を作りながら、清水GK碓井健平の神がかり的なファインセーブに何度も阻まれ0-0のドローとなった。ここまでは決して悲観すべき内容ではなかった。

しかしその後の2戦は内容も結果も伴わなかった。17日第5節鹿島戦は、前半に立て続けに2失点を喫し、攻守に精彩を欠く内容で0-3と完敗。23日第6節大宮戦も低調な内容を引きずり、終始大宮にペースを握られ、セットプレーの失点により0-1で敗戦。ここまで辛抱強く選手達を後押ししてきた仙台サポーターから今年初めて選手にブーイングが飛んだ。

27日ナビスコ杯1回戦第2試合柏戦では2-1と快勝し2回戦進出を決め、久々の公式戦勝利に沸いたが、31日第19節柏戦は、今月3回目の柏との対戦ということでお互い手の内がわかりきった状態での試合を強いられ、0-0のドローに終わった。
結局7月はリーグ戦の勝利はなく、月初めACL圏内だった順位は8位まで下がった。残念ながら仙台にとって7月は「攻勢の月」とはならず、「辛抱の月」となった。

■主力選手の相次ぐ疲労でプレー精度の低下招く

一番大きな理由は主力選手の疲労であろう。震災以降、選手達は毎試合全力を出し切ったプレーを見せ、快進撃を続け、連戦の続いた6月も選手を入れ替えながら勝ち点を積み重ねて好成績で終え、7月に向けて一定の手応えはあった。

しかし、躍進を支えてきた主力選手達のコンディションは、7月梅雨が早々と明けて、非常に暑い日が続いたことも重なって、急激に落ち始めた。開幕以来ずっと先発出場を続けてきたFW赤嶺真吾は、オフザボールで懸命に動いてチャンスメイクをし、相手DFとの駆け引きに勝ってゴールを奪い続けてきたが、徐々にオフザボールの動きが少なくなり、ボールを引き出しづらくなり、相手も仙台のサッカーを研究し、赤嶺へのくさびのボールに対し、マークが厳しくなったことから、次第に赤嶺にボールが収まりづらくなり、好調時のような赤嶺へのくさびのパスからダイナミックな攻撃への展開が見られなくなった。

チームの精神的支柱でもあるMF梁勇基も、活動量が次第に落ち、自慢のプレースキックもなかなか決まらず、セットプレーでの得点が今月は無かった。MF関口訓充は第3節柏戦より謹慎騒動から復帰したが、一時期チーム練習を離れたこともあってか周囲との連係がうまくいかなくなり、本来の調子が戻っていない。
手倉森監督が厚い信頼を寄せる主力選手の疲労が重なったことが、苦戦の主要因であろう。監督もホーム初敗戦となった大宮戦後、「(プレーの)精度が落ちてきているのは否めない」と主力選手の疲労を認めた。

■精神的疲労の回復に努め、チーム状態に上向きの兆し

この疲労は肉体的な疲労だけではなく、精神的な疲労もあったと手倉森監督は捉えている。実際、第5節鹿島戦は猛暑ということもあり、選手が動けないのは仕方ないとも考えられるが、第6節大宮戦は中5日の試合であった上に長袖を着ないと寒いくらいの涼しい日で、十分選手達は動けるだろうと予想されたが選手達の動きは重かった。

単なる肉体的な疲労だけではないと手倉森監督は考え、ナビスコ杯柏戦前のミーティングで、選手を責めることなく、選手の今までの労をねぎらい、慰めたと言う。「震災復興疲れという雰囲気が、今全部にあるのではないか。今、世の中が通常っぽくなってはいるが、復興にはまだまだ時間がかかる。震災からの頑張りが落ち着いてきて、社会全体に疲れが見えていて、それは選手も同じだろう。復興への使命を掲げて選手もエネルギーを注がなければならないという形で来ていたが、彼らに無理を強いているばかりでは選手が壊れかねない。負けているからお前達はダメなんだとは一切言わなかった」と、まず精神的疲労を取ることに注力し、事態の打開を図った。

実際ナビスコ杯柏戦では効果てきめんだった。疲労の色が濃かった梁、赤嶺、富田晋伍を先発メンバーから外し、コンディションの良い選手で臨んだところ、久々の先発起用に応えた太田吉彰のドリブル突破から得たチャンスで、この日プロ初のキャプテンマークを巻いて出場した角田誠が豪快なミドルシュートを決め、終了間際には途中出場の富田が前線に上がってヘディングシュートを決めて快勝。良い時の積極的な守備と、長いボールとポゼッションを使い分けたダイナミックな攻撃が少し戻ってきた。

続くリーグ戦の柏戦では0-0のドローに終わったが、これは柏との試合間隔が短すぎ、お互いの手の内が分かってしまったことも要因の一つだ。守備の面では前から積極的に行く姿勢は戻ってきており、チーム状態は大宮戦で底を打って、上向く兆しが見え始めている状況だろう。

■再びチーム状態を上向かせるために

この兆しを「上向き」に持って行くためには、まず主力選手のコンディション回復が必要だ。31日柏戦後にはオフを2日設定している。また、練習時間も極力夕方の涼しい時間帯にするなど、工夫をしている。練習上の工夫で梁、関口、赤嶺のコンディションが上向いてくれば、再び良い時の仙台の攻撃は戻ってくるはずだ。

そして控え選手のさらなるアピールも不可欠だ。久々の先発出場で気を吐いた太田吉彰、高橋義希らのアピールは非常に良かったし、リーグ戦柏戦2試合共出場を果たし、念願のJ1リーグ戦デビューを果たした右サイドバック細川淳矢も正確なクロスを再三見せ、鼻骨陥没骨折で離脱中の菅井直樹の穴を埋めるべく奮闘中だ。また31日柏戦で大卒ルーキーFW武藤雄樹もベンチ入りを果たし、今後に期待が持てる。

まずは自分たちの肉体・精神の疲労としっかり向き合い、徐々にコンディションを上げていく。そしてアピール意欲旺盛でコンディションの良い選手を使っていくことでこの苦境を乗り切り、8月こそは「攻勢の月」にしたい。

■著者プロフィール

小林健志
1976年静岡県静岡市清水区生まれ。大学進学で宮城県仙台市に引っ越したのがきっかけでベガルタ仙台と出会い、2006年よりフリーライターとして活動。ベガルタ仙台オフィシャルサイト・出版物や河北新報などでベガルタ仙台についての情報発信をする他、育成年代の取材も精力的に行っている。


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