2000年「五条霊戦記」で映画デビュー後、数々の作品に出演し、現在の日本映画界において唯一無二の存在となった俳優・加瀬亮。今回は山田洋次監督が兄弟の愛を描き、大ヒット公開仲の映画「おとうと」で心優しき青年・亨を演じた。「亨はとても男らしくて、演じたことで自分の屈折具合が浮かび上がってきました」と笑いながら話す加瀬に、演技感や今後の展望などを聞いた。

――今回、山田洋次監督の「おとうと」という作品に参加されて、脚本を読んだ時にまず感じたことを教えてください。

加瀬:自分があまり向き合いたくないテーマを扱っているなあと思いました(笑)。というのは、実生活においても家族って面倒くさいですし、向き合うのには体力がいりますよね。それに、普段は個々で生きているので、脚本を読んだ時は「あたたかくて、うらやましい」という気持ちと同時に「実際にこんな事が起きたら面倒くさいぞ」と思いましたね。

――撮影が進むにつれて、その感想は変化しましたか?

加瀬:そうですね。人はいつか必ず死ぬものですが、「全ての人間に関わる事が詰まった、とてもシンプルな映画だな」と思いました。

――山田洋次監督とお仕事をしてみていかがでしたか?

加瀬:今まで映画祭などではお会いしたことがありましたが、ほとんど話したことはありませんでした。映画の撮影に入る前は、誰からも認められている監督なので、恐くて厳しいイメージを勝手に持っていたのですが、本読みの時の監督の様子を見る限り、失礼を承知で言うと、まるで昆虫で遊んでいる少年の様な感じで……。もっと余裕たっぷりに「映画の事なら全て分かっているよ」と構えていらっしゃるのかと思っていたのですが、そんなことはなくて1つ1つ自分の手で確かめるように撮影されていたのが印象的でした。

――吉永小百合さん、鶴瓶さんとの共演はいかがでしたか?

加瀬:鶴瓶さんがお話されることが面白くて、周りにはいつも人だかりが出来ていましたね。お2人ともすごく気さくな方で、僕も緊張せずにいられたので、それがお2人の人柄だと思いますね。

――加瀬さんが演じた亨に、自分との共通点はありますか?

加瀬:自分とはあまり重なりませんね。亨はすごく男らしいし、心がすごく広いと思います。逆に、亨を演じた事で浮かび上がってきたのは自分の屈折具合ですね(笑)。そういう意味では遠い存在でした。

――加瀬さんとは似ていないという亨ですが、演じる際に監督からどのようなアドバイスがあったのでしょうか?

加瀬:この役は監督の知り合いの大工さんがモデルなんです。だから、監督から色々とその方のお話を聞いたり、写真を見せていただいたりして、演技の参考にさせていただきました。