「知らん人に呼びかけられるの『奥さん』やめてほしいんだが。奥さんちゃうし」。先日、鹿児島大学准教授で日本語学を研究する坂井美日さんがXで投稿したこのポストが話題になりました。坂井さんは続けて「だが日本語には、独身30代女性への呼びかけ名詞が無いのだよな」とも投稿。坂井さんに「30代〜40代女性への呼びかけ問題」について詳しく聞きました。

◆「奥さん」呼びは丁寧?「当然結婚しているだろう」の思い込み

坂井さんが「知らん人に〜」という投稿を最初にポストしたのは実体験が元になっているそう。地元の鹿児島で道を歩いていた際に、作業員の男性から作業で必要な周辺設備の場所を尋ねられたときに「奥さん」と呼びかけられたと語ります。

「特に鹿児島は男性が強い社会ということもあり、女性はお嫁に行くのが当然という認識がその方にはあったのかもしれません。30代の私に対して当然ながら結婚しているだろうという予想やそもそも結婚していることがいいことだという認識を持って、丁寧な意味で『奥さん』と呼んできたのでしょう。普段から独身なのに『奥さん』呼びをされる場面は少なくないですね」(坂井さん)

当該のポストはXで大拡散され、坂井さんのもとには玉石混交なさまざまなリプライが続出。その中でも最も多かったのは「お姉さんが適切」あるいは「おばさんが適切」という意見でした。

◆30〜40代女性を呼ぶのに「お姉さん」や「おばさん」は適切か

「『どんな年齢だろうとお姉さんしかありえないだろう』という意見は特に関西弁でのリプライで多かったですね。これはコミュニケーションを大事にする関西圏だからかもしれないです。

また『おばさん』、『ババア』など蔑称の意味の否定的意見もありました。ただその中には、自分が一部の女性から無理やり『こう呼んで』と特定の呼称で呼ばされていた経験から、年齢や呼ばれ方にこだわる女性を恨んでいる人も。女性の呼び方問題は男性も巻き込む根深いものなのだと思いましたね」(坂井さん)

多くの人たちから上がった「お姉さんが適切」あるいは「おばさんが適切」という意見。しかしこの二つにもリスクがあります。

◆「おばさん」だけでなく「お姉さん」も拒否される可能性

「おばさん」は、呼ぶ側が呼ばれる側を自分より年上だと見なしていること、そして呼ばれる女性自身が年齢を気にしてしまう背景もあるので、少し慎重になるべきでしょう。

「どんなに綺麗で若見えする女性に対しても『おばさん』と積極的に呼んで『おばさん』の言葉のイメージを変えていくべきという考えもあると思いますが、言葉は一度イメージや色が付いてしまうと取り除くのは難しい。『おばさん』のイメージが今と変わることは難しいので、新しく30代以上の女性を呼ぶ呼び方があれば偏見なく誰でも使える気はしています」(坂井さん)

一方の「お姉さん」呼びも、一般的に浸透している地域以外では要注意。夜の職業やナンパのイメージを持たれる可能性も。また「いや、あなたの姉じゃないし」という拒否反応が起こることも否めません。ここには、日本語特有の親族名詞を呼びかけに使う文化が影響しているそうです。

◆見ず知らずの人でも「お父さん」。親族名詞を社会でも使う日本語

「たとえばテレビのロケ番組でも、見ず知らずの60代くらいの男性に対して『お父さん』と呼びかけるシーンは珍しくないですよね。その男性が独身だったら、という観点は考慮されていない。でも英語はたとえば男性に関しては年齢に関係なく『sir』でいい。

日本語の呼びかけは相手が自分より年上か年下かが重要で、かつ家族構成をそのまま社会で使う言葉にも持ってきている。親族名詞の転用として呼びかけの言葉が発達してきた背景があるのは日本語の特徴です」(坂井さん)