“驚安の殿堂”ドン・キホーテを運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)会長の安田輶夫氏と、ニトリホールディングスの会長・似鳥昭雄氏が対談し、注目されている両社の後継者問題について胸中を明かした。日本を代表する小売2社の創業者が後継者に求めるものとは何か――。
【画像】「運は行動によって変動するパラメータ」と語るドンキ・安田氏
20年来の親交がある似鳥氏と安田氏 ©文藝春秋
安田氏「運に向き合う感受性を磨くことが経営者には重要」
新卒で入社した不動産会社が早々に倒産し、しばらく麻雀で糊口をしのいでいた安田氏と、家具店を始めたものの資金繰りに行き詰まって自殺まで考えた似鳥氏。ドン底から這い上がった両氏ともに、成功するには「運」が重要だったと語る。安田氏は自らの経験から、運との向き合い方をまとめた『運 ドン・キホーテ創業者「最強の遺言」』(文春新書)を今年上梓した。安田氏の考える「運」とは、どういうものか。
「運は、自らの行動によって変動する『パラメータ』のようなものですね。起点となる運への対応の仕方によって、幸運にも不運にもなる。運に向き合う感受性を磨くことが、経営者には重要なんです。
個人としての運を『個運』、集団としての運を『集団運』と私は呼んでいます。経営者は、個運だけでなく、従業員、お客様、取引先など、みんなを幸運にしないと、業績は上がっていかない。つまり集団運を良くすることが重要です」
「運」は決して偶然の産物ではない
似鳥氏も「ニトリの成功は『運が7割、実力が3割』」といい、経営における「運」の大切さを説く。
「運とは、それまでの人づきあい、失敗や挫折といった経験から醸成されるもの。決して偶然の産物ではないですよ。
お互い無一文からのスタートだから、誰も挑戦していないことに取り組んでいかないと話にならない。積極的にリスクを取る勇気がある人には、運がついて来るんでしょう」
ともに運を引き寄せ、PPIHは今年2兆円超の売上を記録し、ニトリは36期連続となる増収増益を達成する一大企業にまで成長した。そして、安田氏は今年75歳、似鳥氏は80歳を迎える。否が応でも、経営を次世代に託すことを考えはじめる頃だ。
では、後継者問題をどのように考えているのか。
「いま息子には帝王学を学んでもらっています」
PPIHは、今年9月に安田氏の長男・裕作氏が、22歳の若さで非常勤取締役に就任したことが話題になった。だが、安田氏はPPIHの後継者は、経営と資本で分けると明かした。
「私は、会社の経営と資本は別でいいと思っています。経営では、衆望を集めて、集団運を醸成できる人がトップに立つべきです。個人の能力は二の次でいい。それよりも周囲に、『この人のためなら、一肌も二肌も脱ぎます』と言わせる経営者こそ、運が開けるし、運をつかめる。
経営者は社員から選べばいいのですが、資本の継承は運というよりは運命なので、これは少し話が違ってきます。私の株を受け継ぐのは息子です。だから、長男を取締役にして、主だった人に紹介して回っています。いきなり『大株主です』と言われても、経営陣も困るでしょう。資本の立場から経営を見ていかないといけないので、いま息子には帝王学を学んでもらっています」
「後継者も革命ができる人がいい」
一方の似鳥氏は、今年1月にニトリHD会長を務めながら株式会社ニトリの社長を兼任することを発表。社長への返り咲きはおよそ10年ぶりで、同社の社長だった武田政則氏はニトリHDの副社長に就任し、海外事業に力を入れることになった。後継者問題をどう考えているのか、似鳥氏は次のように語る。
「長男は、私の個人会社の社長をしていますが、創業家経営は一代限りで、長男には継がせません。株主としてニトリの動向をチェックして欲しいと頼んでいます。だから、後継者問題は永遠のテーマですね。
安田さんも私も、新たな事業を興した革命家でしょう。後継者も革命ができる人がいい。子会社を任せて、今までのやり方を壊して新しいことを始められる。そんな人材が出てくることを願っています」
11月9日発売の「文藝春秋」12月号に掲載されている対談「ドンキとニトリで、目指せ地球制覇!」では、両氏の考える、運を引き寄せる人・引き寄せない人の特徴や、停滞する日本経済への提言など、余すことなく語り合っている。(「文藝春秋 電子版」は11月8日先行公開)
(「文藝春秋」編集部/文藝春秋 2024年12月号)