聞く人間に気を遣わせないよう明るく振る舞うからか、病状も安定しているかに思ってしまう。だが検査の数値は必ずしもそうではないようだ。
「がんの病理検査では、『顔つきの悪い、活発ながん』だと言われました。9月から抗がん剤の投与が始まっています。最初の3ヶ月間は、週に1回のペースで行うようです。3週間に1度、3種類の抗がん剤を投与する日があるのですが、やはり特に具合が悪くなりますね。吐き気はもちろん、鼻血が出ることもありますし、手足のしびれ、最近では顔面の麻痺も経験しました。吐き気止めが効かない吐き気というのは経験がなく、とてもつらかったですね」
◆丸坊主になった姿を見て、長女の反応は…
辛い治療に立ち向かうとき、Rinaさんが必ず思い浮かべる顔がある。
「家族ですね。がんがわかったとき、母にまず電話をしました。電話口の母は泣いていましたが、看護師でもある彼女は、力強く『死なせないし、死なないから』と言ってくれました。長女は、丸坊主になった私を見て、『可愛い。私も同じ髪型にしようかな』なんておどけていました。多感な時期だし、本当は悲しいはずなんです。でもそれを見せることなく励ましてくれるのがあの子らしいなと感じました。家族に支えられているから、私は闘えるんだと思います」
Rinaさんは、自身の経験を多くの人たちに共有したいと話す。その意図はこんなところにある。
「多くの人に呼びかけたいのは、検診に行ってほしいということですね。特に、昔の私のように健康体で、病気なんて無関係だと思って生きている人がいたら尚更です。がんになってから、どうしてもがんになった理由を知りたくて、BRCA遺伝子検査も受けました。すると、私の乳がんは遺伝性を否定されたんです。つまり、身内にがん罹患者がいないというのは何の気休めにもならないんです。
人はいつ、どんなタイミングで病気になるかわかりません。悪い予想を打ち消すためにも、勇気を出して検査をしてほしいなと思いました。実際、SNSを見てくれた人から『検診に行きました』と報告をもらうと、嬉しい気持ちになります。今、免疫力が低下している状態の私は、以前のように人前に出てなにかパフォーマンスはできないけど、そういう形で役に立てているんだなと思うんです」
日常は突然脅かされる。人生はある境界で健常者から患者に色分けされ、世界は一変する。「それでも、できることはある」――きっとRinaさんならそう言うに違いない。極限の状態でも誰かしらの役に立てる。そう信じて発信するRinaさんの闘志の奥底に、家族愛の究極をみた。
<取材・文/黒島暁生>
【黒島暁生】
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki
- 前へ
- 2/2
外部リンク日刊SPA!