「托卵(たくらん)」をテーマにしたドラマ『わたしの宝物』(フジテレビ系、木曜よる10時〜)。話題の作品を、夫婦関係や不倫について著書多数の亀山早苗さんが読み解きます(以下、亀山さんの寄稿)。
◆『昼顔』『あなたがしてくれなくても』に続く禁断のドラマオンエア前から話題になっていたドラマ『わたしの宝物』が始まった。これは、過去大きな反響を呼んだ不倫がテーマの『昼顔』、セックスレスをテーマにした『あなたがしてくれなくても』に続く、禁断に挑むドラマ第三弾といってもいいかもしれない。
今回のテーマは「托卵」である。夫以外の子を産み、夫には知らせないまま家庭を維持して夫とともに育てていく「托卵」は、今、世間で話題にもなっている。もともとはカッコウなどの鳥類が、他の巣に卵を産みつけて、その巣の主にヒナを孵(かえ)させる行為だ。
◆「暇だから子ども欲しいんだろ」と言い放たれて
神崎美羽(松本若菜)は、夫の宏樹(田中圭)と結婚して6年たつ。もともとは仕事が好きだったのに、夫の希望で専業主婦となったが、「私が叶えた夢は文鳥を飼うことくらいかな」と言うほど、張りのない鬱々とした日々を送っている。鬱々としているのは、夫のモラハラが大きな原因だ。
夫が夜中に連れてきた同僚の名前を間違えて「いいかげん覚えたら?」と言われたり、夫の忘れ物を届けたら「遅い」と怒られたり。あげく、子どものことを真剣に考えようと提案すると「美羽さあ、暇だから子ども欲しいんだろ」とまで言われる始末。いちいち気持ちを切り替えて、なんとか夫に明るく接しようと必死になっている妻に対し、「笑うなよ」と笑顔さえも否定する夫。
見ていてムカムカするような絵の連続である。実際にモラハラ夫に苦しめられて離婚した知人女性は「あの頃が思い出されて、胸が苦しくなった」と話してくれた。
ただこの夫、妻に無関心なのかといえばそういうわけでもない。支配欲が強いのは確かなのだが、やたらと外面がいいということを考え合わせると、彼は彼で、相当大きなトラウマを抱えているようにも見える。
◆幼なじみとの再会で、久しぶりに心が躍動したのに
ある日、美羽は中学時代の後輩・冬月稜(深澤辰哉)と、昔なじみの図書館で再会する。2年後輩のくせに「夏野〜」と呼び捨てにし、いつも駄菓子屋で買うようなお菓子をくれて気持ちを和ませてくれた冬月くん。あのころの思い出が一気に蘇り、美羽は冬月への親近感を新たにする。
冬月は、フェアトレードの会社を興しており、そこを人に預けてアフリカに学校を作りに行くと生き生きと語る。そんな彼を羨ましく思う美羽に、冬月は日本での自分の最後の仕事となるフェアトレードのイベントを手伝ってほしいと持ちかけた。
手製の栞(しおり)を作り、久しぶりに自分の心が躍動するような経験をした美羽。そんな彼女を、夫の宏樹がわざわざやってきて見つめていた。ここに夫の複雑な心理が見え隠れする。
◆酔った勢いで夫に襲われ、そのまま冬月と……
妻に去られたら生きてはいけない。宏樹にはそれがわかっている。だから酔った勢いで、無理やり妻を抱く。不本意なセックスをした美羽は、明け方、ふらふらと例の図書館へ赴く。そこには冬月が忘れ物を探しに来ていた。
彼はその日の午後、旅立つのだ。もう会えないかもしれないという切迫感、冬月に会ってやっと動き出した心を止めたくない熱い思いに突き動かされて、美羽と冬月は求めあう。
「一時帰国するから。迎えに来るから」
冬月の言葉に、美羽は生きる希望を見いだす。現地に到着した、順調にいってると冬月から毎日連絡が来る。
そして彼女は気づく。生理が遅れていることに。
◆「あなたの子よ」念押しのように夫へつぶやいた
病院に行くと、妊娠が判明。あわててDNA検査をしてみると、夫との間に親子関係のない胎児だとわかる。父親は冬月だ。そのときテレビで、冬月のいる場所で大規模テロが起こり、死亡者の名前に「フユツキリョウ」がテロップで流れた。
美羽は帰宅した夫に妊娠を告げる。そして「あなたの子よ」と念押しのようにつぶやく。夫は不安そうな表情を浮かべた。
「私は悪い女」という美羽のナレーションが最後に入るのだが、この時点での状況を考えれば、今ひとつしっくりこない気がした。
冬月は、おそらく生きているのだろう。そこからが美羽の苦悩の始まりになるはずだ。
◆泣くポイントが同じ人とは、一緒にならないほうがいい
美羽と夫は、もともととても仲がよかったことがよくわかる回想シーンがあった。美羽が泣くと夫も泣く。よく泣くカップルだったという。そこでふと思い出した。
「笑いのポイントが一致する人とはうまくいくが、泣くポイントが同じ人とは一緒にならないほうがいい」ということを。
泣くポイントが同じだったり、相手が泣くともらい泣きしてしまうような人だったりすると、お互いのネガティブな感情に引きずられやすいからだ。片方が落ち込んでいたら、一緒に落ち込むことになる。長く一緒にいられるのは、適度な距離感をもち、落ち込んでいたら自然と気持ちが浮上するような気遣いができる人なのではないだろうか。美羽にとって、本来は冬月こそがそういう相手だったはず。
ただ、中学時代、「また会えると思っていた夏野が突然、いなくなった」と冬月が回顧しているので、宏樹同様、美羽にも払拭しきれないトラウマがあるのかもしれない。
過去がだんだん見えてくると、今の顛末(てんまつ)になるのは仕方がなかったとわかってくることになりそうだ。
◆田中圭の「あまりに自然なモラハラ夫」が不気味
それにしても、田中圭の「あまりに自然なモラハラ夫」が不気味だ。外で「いい人」を演じるあまりに妻にイライラをぶつける夫は少なくないと見聞きするが、彼のモラハラっぷりが、イライラをぶつけるという類いのものではなく、「いちばん近い他人である妻には、自分の負の感情をどれだけ見せてもいいと思い込んでいる人」にしか見えないのがすごい。
今後、3人3様の苦悩と葛藤が展開されていくのだろう。結末はどうなるのか。最終回まで話題になりそうで楽しみである。
<文/亀山早苗>
【亀山早苗】
フリーライター。著書に『くまモン力ー人を惹きつける愛と魅力の秘密』がある。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。Twitter:@viofatalevio
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