例えば25年から本格的に出荷が始まるエヌビディアの最先端AI半導体、「ブラックウェル」はTSMCの4nmラインで生産されている。4nmは5nmの拡張版なので、微細化という点では一世代前の技術だ。微細化に代わって技術革新が進んでいるのは、ウェハ処理や検査が難しい「ダイ」(半導体チップ)の大きな半導体を生産する技術、HBM(多積層メモリー)を生産する技術、GPU(画像処理半導体)とHBMをパッケージに組み込む技術などで、半導体製造工程ではこれまで比較的設備投資が軽かった後工程が重視されている。「ブラックウェル」はGPUなどのロジック半導体に8層のHBMを組み込んでつくられるのだが、この工程では最先端ではないが複合的な技術が必要になってくる。いまのAI半導体は、微細化以上にこのような工程の技術革新のニーズが高まってきているのだ。
◆サムスン、インテルが脱落し、半導体製造はTSMCの一強体制に
と言っても、長いスパンで見れば半導体の微細化という流れが止まったわけではない。アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD) はエヌビディアに先駆けて25年から3nmのAI半導体の製造を開始する予定で、エヌビディアも26年の出荷を目指している「ブラックウェル」の次の世代のAI半導体、「ルービン」には3nmのチップを採用する可能性がある。そうなると、両社から製造を委託されるTSMCは、改めてASMLのEUV露光装置の発注を増やしていくはずだ。
AIの時代は、これまでのようにスマートフォン向けのロジック半導体だけが最先端半導体の用途ではなくなるかもしれない。実はこれまでは、TSMCの最先端半導体製造ラインを生産初期はアップルが独占していたため、他社は不満を募らせていた。サムスン電子も3nmまでの量産化に成功したと言うが、TSMCと比べれば歩留まり率がなかなか向上しない。インテル は微細化では大きく出遅れている。ASMLの受注減にはこの2社の不調も絡んでいるのかもしれないが、いずれにせよ、現時点で最先端の半導体を量産する技術を持っているのは、TSMCだけだからだ。
したがって中長期的に見れば、微細化技術の重要性には変わりがないと思われるが、それが全てではない状況になるかもしれないのだ。そして、最先端ラインの顧客はアップルだけではなく、AMDなど他の半導体ファブレス・メーカーへと分散されていくだろう。ただし、AI半導体は企業向けが中心で、最先端ライン以上の高い生産性が必要なので、最先端から1世代前のラインを使う状況は今後も続くと思われる。このようなことが今回の決算でおぼろげに見えてきたわけだ。
◆対照的なマイクロソフトとアマゾンのAI戦略、現時点での勝者は?
次に、間近に迫ったハイテク各社の24年7-9月期の決算の注目点を見ていこう。前提として言えるのは、TSMCの決算でも明らかになったように、エヌビディアのサーバー向け、大企業向けAI半導体の需要は引き続き旺盛で、TSMCによる大量生産が続いている、ということだ。そしてこれから始まる各社の決算発表では、顧客側のハイテク企業が、どう収益に結び付けているのか、そしてAIのトレンドがどのように変化しているのかを確認する場になるだろう。
まずマイクロソフト 、アマゾン・ドット・コム 、アルファベット のクラウド大手3社の中では、特に生成AIに関しては対照的な戦略を採っているマイクロソフトとアマゾンの業績を比較して検証するのが分かりやすい。