植物工場の技術が確立され、世界中で同じ農作物が生産可能となれば、その市場規模は200兆円規模になるといわれる。同社はその市場でのリーディングカンパニーを目指し、研究開発を急ぐ。現在NTTを始めとした各産業界大手との連携を進めている。政府関係者も「植物工場は我が国のイノベーションを様々な形で発揮しうる分野」とし、国としても積極姿勢である。


若者から応募が殺到

 長らく続く和食ブームをみても世界において日本の食の価値は世界に十分認められている。しかしそれを縁の下の力持ちで支える一次生産者の年収は低く、利益がほとんど出ない経営で倒産も少なくない。農林水産省の「令和4年農業経営体の経営収支」によれば、農業所得は98.2万円。円安、原料高で飼料費や動力光熱費等が増加し前年比で21.7%減。コメ不足が騒がれる中でも、24年1月から8月のコメ農家の倒産は34件と昨年23年を大幅に上回る(帝国データバンク)。

 農業は儲からない、体力的にきついといった点で、普通の仕事に比べると勤務条件が悪く後継者不足が問題視されている状況だが、現在Oishii社で働く220名の社員の多くは20~30代前半だ。最近では古賀氏がX(旧Twitter)で日本からの農業研修生を募集したところ、説明会だけで20~30代前半の若者から数千名の応募があった。しかもほとんどが農業未経験者で、わざわざ米国まで行き就業しなければいけないにもかかわらずエントリーは数百名あった。

「わたし自身も驚きました。十分な給料、1日8時間労働で通常の仕事と同時間帯、サステナブルに世界の食に貢献できるやりがいといった、良い労働環境さえ整えば、若い人たちはこの業界に対してすごく希望を持っている。Z世代やその下の世代は、地球や人類のため、人の役に立つ仕事に就きたいと本気で思っている人が実に多い」(同氏)

 説明会会場は当初20名枠で押さえていたが、応募者が膨らみやむなくオンライン開催となったという。来年内に開設するセンターにもこの勢いで若者の応募が殺到するのだろうか。古賀氏が描く日本発のグローバル産業創出には、志をともにする人材がどれだけ集まるのかが今後の明暗を分ける。

 日本企業がこれまで培ってきた叡智を集結し、それを世界市場に生かしていく─。古賀氏の挑戦は続く。