─ 今、学生は医学部を卒業しても医師にならずに、金融機関やコンサルティング会社に就職するという事例も増えていますね。

 河北 非常に多いですね。問題は、そうした考えを持った人達が医学に行くというところから始まるわけです。その意味でも、入学試験から見直さなければならないのです。

 入学試験で、実際に必要な学力の部分は20%で十分。10%でもいいと思うのです。あとは、本当に人に寄り添うことができる人かどうか。どんなに辛い思いをしても、自分は一生懸命に患者さんを診るのだという覚悟がある人の方が、勉強ができただけで医学の道に来た人よりもいいのです。今は学業的な優秀な人ほど、他の業界に行ったり、美容外科など業務の負担が少ない医療分野に行ってしまう。

 ─ ある意味で楽な道に走ってしまうと。

 河北 大半の医師は勤務医として大学病院に残る、あるいは当院のような研修病院に来て一生懸命働いています。しかし、彼らに子供たちが生まれ、大きくなり、医学部に行かせたいと思った時に、開業していなければ、通わせるだけのお金を稼ぐことができません。聞いた話ですが、今では同じ年齢であれば勤務医より、銀行員や証券会社の社員の方が給与は高いのです。

 ─ 日本全体で医師を志望する人が減っているということはありますか。

 河北 そういうことはありません。未だに医学部は人気があります。そして、女性が増えました。私は非常にいいことだと思っていますし、医師は女性にとってもいい仕事だと思います。

 ただし、仕事場では欧米のように、女性と男性は区別をしてはいけません。そこはまだ日本は男性中心の社会である故、女性を男性と同じように扱えないわけです。もちろん、生理的に女性と男性は違いますから、そこは考慮しなければいけません。しかし、それ以外は男性と全く同じ仕事をしてくれる方がありがたいです。でも日本はそういう状況にはなっていません。


高齢社会でがん、フレイルにどう向き合う?

 ─ 高齢化に関しては、どのように対応していますか。

 河北 高齢社会はイコール、がん社会です。がんに対しては、しっかりと放射線治療も含めて考えています。しかし残念ながら、日本では放射線治療はまだ受け入れられていません。

 今、日本の全てのがん患者の中で、放射線治療を受けている人は20数%です。アメリカ、ヨーロッパなどの先進国では85%ほどのがん患者さんが、放射線治療を受けています。

 ─ この要因はどこにあると考えていますか。

 河北 これは正直わかりません。戦時中の原子力爆弾の影響なのか、日本は放射線に対する潜在的なアレルギーがあるのではないかと思います。

 がん治療では、若い人の場合には早期発見して、手術で切除すればいいと思います。しかし、高齢者でがんを発症した人達は、切除すると本人が通常生活に戻ることが難しくなりますから、その都度対応していく。

 ですから、がんと「共生」していくような治療が、今後進んでいくことになります。がんと共生する上で、最も侵襲性が少ないものが放射線治療です。

 もう1つ、心臓と呼吸器は命に関わりますから、しっかり診ていきます。特に心臓や脳血管に関する疾病は血管病ですから、そこはしっかり成人病、生活習慣病として対応することが大事になります。

 さらにもう1つ「フレイル」(年齢に伴って筋力や心身の活力が低下した病態)です。心肺機能がしっかりしていても、歩けなくなったら生活できません。ですから、整形外科的な疾患やフレイルを診ていくことが重要になります。