一般的な小児科医療は「心」を診ていない

 ─ ここに病院の役割も出てくると?

 河北 そうです。こうした問題に小児科が対応しなければいけません。精神科では駄目なのです。精神科にはお母さんと子供は一緒には行きません。そして、一般的な小児科の医療は「心」を診ていません。

 ─ 心の療養は学校や社会とのつながりも含めて成り立ちますね。河北総合病院の小児科では取り組んできたと。

 河北 心のケアには、ずっと取り組んできましたが、その経験から、あまりにも無駄が多すぎたという反省もあります。

 医師の仕事は診療にずっと付き合うことではありません。医師はまず「入口」をしっかり固めること。最初のコンタクトは医師が正確に診断することです。その後は、臨床心理士などに委ねなければいけません。委ねるけれども、最後の「出口」は医師が考えなければいけません。

 ということは、医者は、人に委ねたことも全部わかってなければいけない。それが「ディジーズ・マネジメント」です。最初と最後だけわかっていればいいのではなく、途中の過程は他の人に任せても、全てを管理監督することが医師の仕事です。医師は患者さんを診るのではなく、常に過程を見ていなければならないのです。

 ─ 非常に大変な仕事だということですね。

 河北 ただ、現状の日本では多くの医療機関で「ディジーズ・マネジメント」がほとんどできていません。一方でアメリカでは「ディジーズ・マネジメント」が非常に発達しています。

 医学教育は重要です。私は今、日本の医学教育を変えようと、厚生労働省の中に設置した「河北班」という研究班で動いています。その中では「ディジーズ・マネジメント」の概念も考えながら進めています。

 日本は2010年にアメリカから「今の日本の医学教育では駄目だ」と指摘されています。今のままであれば、日本の医師はアメリカで研修させないという通知が来たことがあるのです。

 ─ この要因は何でしたか。

 河北 それは臨床実習をほとんどやっていないからです。臨床実習こそ「ディジーズ・マネジメント」なのです。

 日本の医学教育は単語を暗記して、その単語をつなげることができれば、国家試験に合格することができます。そうではなく、臨床実習に参加して、常にいろいろな患者さんを診ながら、患者さんにどう接していくかを学ぶことがアメリカの医学教育では重要視されています。

 ところが、日本の6年間の医学教育の中で、最後の1年間は国家試験用に予備校のように座学で勉強するわけです。これでは身につけるべき能力が身につきません。

 医師が、ある患者さんをどうマネジメントするかを、全体を通じて自分で考え、人に委ねるべきものは委ね、管理責任は全て医師が持つ。この「ディジーズ・マネジメント」の考え方で、地域医療の中で小児科医療をもう一度作り直したいと考えているのです。


医学教育を見直すべき時

 ─ 医療界の中で、河北さんの考えに理解を示してくれる医師はいますか。

 河北 正直、なかなかご理解いただけていないという感じがしています。それというのも、多くの医師は日々の診療に追われているのが現実だからです。

 ─ 河北さんが、医療のあるべき姿を追求できるエネルギーの源は何ですか。

 河北 私は恵まれた教育を受けてきました。そうした恵まれた教育を受けた人間は、それを社会に還元しなければいけない。その思いがあります。そして祖父も父も、非常に真面目に医療に取り組んでいましたから、彼らの後ろ姿を見ていたことも大きかったと思います。