ただし、被告人は保護対象外なのだ。告発の動機は「復讐心」と認められ、悪意が前提。そして、被告人の犯した最大の「ミス」は通報先がSNSだったこと。「公益通報」の要件として、通報先が「事業者内部」や「権限を有する行政機関」などと定められているが、被告人はSNSに投稿して不特定多数に晒してしまったのだ。

 適切な行政機関に通報すればよかったのだが、被告人の告発の動機が「復讐心」から社会に拡散されやすいSNSを選んでしまったのだろう。

◆「SNS告発投稿」の危険性

 昨今のSNSへの投稿には危険がはらんでいると、Xで約20万人以上のフォロワーを有するA氏は語る。

「ここ数年のSNSは、無法地帯化しているといえます。何か投稿すれば、それを揚げ足取りのように誹謗して拡散する。SNSは社会に発信する力がとても強いので、一言の発信でも命がけです……」

 そして、この発信力を用いた“告発投稿”も後を絶たない。当然、本件のように「公益通報」にはならないため、告発投稿が発覚して会社を解雇されたとしても、解雇の不当性が認められずに有効となってしまう。さらにはSNSを用いると、告発の手段の相当性を欠くという理由から、告発者として十分な保護を受けられないまま「逮捕」という形も十分にあり得てしまうのだ。

 本件も当初は、「威力業務妨害罪」で逮捕されており、SNSに投稿したことが営業妨害をさせた「威力」と判断されたものと思われる。その後、検察側はナメクジの大量発生はウソだということが立証できると判断し、「偽計業務妨害罪」で起訴となったのだろう。

◆“悪の拡散”が逮捕の要因に?

 さらに、A氏は「Xがソーシャルメディアとして無法地帯化せずにいれば、今回の件も警察や検察側の対応は変わったのでないだろうか」と指摘する。特に本件では、他の利用者らが告発投稿を引用して、大阪王将を誹謗中傷するものが目立った。しまいには、運営会社や系列店舗にまで迷惑電話が多数かかってきたという。

 このように、一連の投稿を引用し誹謗中傷する“悪の拡散”がされずに、「ナメクジの発生」という事実だけが広まったとしたら、はたして逮捕まで至ったのだろうか。「SNSの利用する側も、改めてこの事件から見直す必要があるのではないか」とA氏はしめくくった。

◆検察側は懲役1年6か月を求刑

 9月27日の第5回公判で論告・弁論が行われた。検察側は被告人が労働環境や店長への不満から復讐しようとした動機について、身勝手で短絡的だと指摘。仙台中田店が閉店に追い込まれてしまったことや、本件投稿が広く拡散されたことなど、結果が重大だとして、懲役1年6か月を求刑した。

 一方で、弁護側はナメクジの大量発生は事実だと主張。これまでの公判で明らかとなった、被告人の壮絶な生い立ちなどから、SNSが唯一信頼のできる存在だったことなどを強調して、寛大な判決を求めた。

 “話題の告発者”から一転、被告人になった今回の事件。裁判で、SNSに蔓延る“告発投稿”の危うさ、そしてSNSを利用する人たちの“使い方”の課題も浮き彫りとなった。

 判決は、10月24日午前9時40分から予定されている。

取材・文/学生傍聴人

【学生傍聴人】
2002年生まれ、都内某私立大に在籍中の現役学生。趣味は御神輿を担ぐこと。高校生の頃から裁判傍聴にハマり、傍聴歴6年、傍聴総数900件以上。有名事件から万引き事件、民事裁判など幅広く傍聴する雑食系マニア。その他、裁判記録の閲覧や行政文書の開示請求も行っている。