これに対し、デジタルを使えば、メールやLINEを送って、反応を見て次はこう返そうということが、ビッグデータの活用で標準化できます。

 このモデルが営業職員の活動の一定程度を占めてくれば、初めて営業活動に携わる人でも入りやすくなります。人手不足下で人材を採用するためには、営業職員活動の魅力を高めることはもちろんですが、活動の標準化をデジタルで進めることも重要だと考えています。

 ─ デジタルだけでなく「人」と融合させると。

 清水 そうです。先日、ある支社を訪れたのですが、その場でもデジタルがいかに発達しても営業職員の必要性、力は変わらず、むしろ高まるということで意見が一致しました。

 お客様がどんな不安を抱えているかは、自ら言葉にはしづらいものです。それを営業職員が、それまでの経験を生かして、会話の中で上手に引き出すのです。やり取りの中で不安の中身を明確にし、共通理解を得て、保険提案に結びつけるのが営業職員の力ですが、それがAI(人工知能)にできるとは思えません。

 デジタル、AIができることは当然あります。それによって営業職員が余裕のある働き方ができ、力を発揮しやすくなります。デジタルが進めば進むほど、「人」の力がより価値を持つというのは確信に近い思いです。

 ─ 顧客が抱える思いを形にするのは「人」にしかできないということですね。

 清水 ええ。特に生命保険は入る時が大事なのではなく、入ってから5年、10年という長期の商品です。ご自分の生活環境が変わった時に、最適な保障なのかを自らチェックすることが必要ですが、営業職員がアフターフォローすることで、最適な保障をご提案できます。このように、デジタルではカバーできない領域は大いにあります。

 ─ 「貯蓄から投資へ」の流れの中で新NISA(少額投資非課税制度)も始まりました。貯蓄性商品を扱う生保としてどう取り組みますか。

 清水 特に今の若者は堅実ですから、NISAを含め資産形成に極めて真面目に取り組んでいます。その現状を見た時に、当社では資産形成を支援する商品の品揃えが不足しています。保険、保障の必要性を訴えるだけでなく、資産形成商品を取り揃えて、生保サービスの幅広さを打ち出したいと思います。


ニチイHDと連携して実現したいこととは?

 ─ グループ入りしたニチイHDと、どう連携して事業を進めていきますか。

 清水 1990年前後に2カ所の有料高齢者施設をつくるなど、当社も介護に関心を持ち続けてきました。その後、99年にニチイと提携し、様々なサービス提供をしてきた中で、今回はいい巡り合わせでグループに入ってもらうことになりました。

 当社として、サステナビリティ重点領域として「人」、「地域社会」、「地球環境」を定めています。「人」は生命保険で安心を提供する、「地球環境」はカーボンニュートラルの実現です。

 そして「地域社会」は、当社は135年事業を続けていますが、全国に支社を展開し、その地域に住む営業職員を雇用して保険を提供していますから、昔から地域の発展が事業の発展とイコールでした。

 ところが今、少子化・高齢化の中で地域の活力が失われていますから、我々が何とか地域の発展を支えたいという思いがあります。そのためには様々な要素がありますが、高齢者の方が安心して元気に働き、暮らせる。子供が生まれて、その土地ですくすく育つ。これらは地域の活力を維持する基本的な要素です。

 ニチイは介護に加えて保育も手掛けています。当社も介護に関心を持ち、保育も細々ながら力を入れてきましたから、当社がやってきたことにニチイの力を合わせることで、さらに広く展開できるのではないかという期待を持っています。

 ─ 「失われた30年」と言われてきましたが、日本の潜在力をどう見ていますか。

 清水 期待感が大きいですね。政権が資産形成の旗を降ったことで資産の有効活用が進んでいます。さらに賃上げを明確に打ち出したことで民間も呼応して、大企業を中心に多くの企業が賃上げを行いました。日銀もタイミングを見ながら、金融政策の正常化に動いています。

 企業は金利が上がることで事業環境がよくなりますから、それをどのように新規事業、設備投資、人的資本投資をして、成長をしていくかを考える段階に入ってきました。

 政府、個人、企業が三位一体でデフレから完全脱却して、次の成長に向かうという共通した意識を感じますから、経営者として、この千載一遇のチャンスを逃さないように取り組みたいと思います。