[画像] そもそも3バックと4バックは何が違うのか。メリット、デメリットを考える。最大の強敵と戦う10月に日本はどちらを選択すべき?

 9月から始まった北中米ワールドカップ(W杯)最終予選、中国戦とバーレーン戦は、7−0、5−0で日本代表の快勝スタートとなった。

 この2試合で日本が用いたシステムは3バック、3−4−2−1だった。これは6月の活動でも試してはいたが、今回は三笘薫や伊東純也といった看板ウインガーの復帰を受け、慣れた4バックに戻すことも考えられた。しかし、森保一監督は3バックを継続。結果は大勝だった。

 10月はアウェーでサウジアラビア、ホームでオーストラリアと、グループ最大の強敵との対決が待つ。この山場で、日本が3バックを継続するか否かは一つの注目点だ。

 そもそも、3バックと4バックは何が違うのか?

 4−4−2や4−3−3など、世界的にも近代史的にもサッカーの主流である4バックは、全体のバランスを均質に整えやすい。4−4−2で固まってゾーンディフェンスを行なう時も、4−3−3で広がってポゼッションを行なう時も、サイドや中央といったエリアごとの偏在はなく、均質にカバーされる。
【PHOTO】キュートな新ユニ姿を披露!日本代表戦中継に華を添えた影山優佳を特集!
 一方、3バックは全体が均質ではない。エリアごとに厚みを変えたシステムだ。まず、最後尾の厚み。4バックはCBが2人なので、基本的に中央のスペースを空けていいのは、ボールを奪える時か、クリアできる時だけ。何でも無謀にチャレンジしたり、深追いしてはいけない。しかし、3バックの場合はCBが3人いる。自分が飛び出した時、残り2人のCBがスペースを抑えてくれるため、安心感があり、思い切ってボールを奪いに行ける。

 また、ビルドアップ時も最後尾が3人なら、相手FWに対して数的優位に立ちやすい。仮にプレスで追い込まれても、パスの距離が近いため、ボールを逃がすことも容易だ。このようにボール保持、非保持共に、3バックでは最後尾に安心と保証が付く。

 前線も同様だ。3−4−2−1の場合、1トップと2人のアタッカー、計3人がペナルティエリアの幅で攻撃を仕掛けることが初期配置で保証されている。3−5−2(3−1−4−2)の場合は、2トップと2人のアタッカーで、さらに厚みが増す。こうした局所的優位は、均質な4バックにはないものだ(4−4−2のダイヤモンド型のような特殊型は除く)。
 サッカーはゴール数を競うスポーツなので、両ゴールに近いエリアほど重要度が高まる。攻守でそのエリアに厚く人をかけられるのが、3バックの特徴だ。

 ただし、デメリットもある。上記のメリットを保証しているのは、両ウイングハーフであり、彼らが大外レーンをカバーすることで、残り8名のフィールドプレーヤーがペナルティエリアの幅でプレーする厚みを享受している。そのため、ウイングハーフが破綻した場合、システム全体が崩れる。

 では、ウイングハーフが破綻するのはどのような時か。懸念されるのはトランジションの頻発だ。

 前提として、3枚のDFでピッチの横幅68mはカバーできない。相手のボールホルダーに前を向かれたら、完全マンツーマンにでもしない限り、背後を陥れられる。

 そのため、攻撃から守備の切り替えでボールを奪い返せなかった時は、両ウイングハーフが下がり、3バックから5バックに変形して構えるのが通常だ。その後はボールを奪ったら、再びウイングハーフが攻撃の幅を取るため、前線へ上がって行く。

 攻撃時は3−2−5、守備時は5−2−3。ここで「5」の厚みを保証しているのがウイングハーフだ。攻守で最後尾と最前線を行き来している。そのため、激しいトランジションを繰り返す展開になると、縦の移動距離が増え、疲労が溜まったり、間に合わなかったりと、バランスが崩れる要因になる。

 一方、4バック系の場合はこうした特定のエリアへの偏在がないため、激しいトランジションが発生しても、配置のバランスは崩れにくい。全体がつながりを保てる。そのため、行き来の多いアグレッシブなスタイルを志向するチームは、大半が4バックだ。

 3バック成功の鍵は、それとは逆になる。オープンな展開にせず、ペースをコントロールすること。攻撃時はしっかり押し込み、守備時はじっくり構える。攻守にメリハリを付け、試合のペースを抑えれば、3バックの長所は発揮される。

 中国戦とバーレーン戦が、まさにそうだった。中盤が存在せず、相手陣内に押し込み続けた。配置は3−2−5のままでトランジションが少なく、3バックに適した展開と言える。これが4バック系システムなら、攻撃時はサイドハーフが内側へ入ってサイドバックが上がったり、あるいはサイドバックが内側を走り抜けたりと、段階変形してキーエリアへ人を増やすアクションが必要になるが、3バック系は最初からキーエリアに人の厚みがあるので、その必要がない。ほぼ初期配置で安定して押し込めた。
 ただ、これは落とし穴もある。中国戦は3−2−5で押し切ったが、バーレーン戦は相手の分析と抵抗があり、3−2−5のままでは手詰まり感があった。ここが難点だ。3バック系は最初から効果的なスペースに立っているので、動く必要がなく、パターンが硬直しやすい。しばらく攻めあぐねた後、30分頃から日本の選手たちはポジションを大きく変え、特に守田英正が6人目でライン間へ潜ったアクションをきっかけに、攻略に至った。

 3バック系が安定感故に流動性を失い、硬直状態に陥ることは、守備でも起こり得る。5バックに変形して構えた後、下がりっぱなしになる現象がそれだ。安定的に構えた状態なので、バランスを崩して前へ出づらい。3バックで起こりやすい課題のナンバーワンと言えるが、今は対戦相手の力量もあり、顕在化していない。

 一長一短のある3バックと4バック。どちらを選択するべきかは、選手の適性、対戦相手やゲームプランによるだろう。

 たとえば、カタールW杯や親善試合で対戦したドイツは、対5バックを苦手にしていた。彼らはポゼッションしつつも、ダイレクトなロングボールで一気に背後を突いたり、速い縦パスを突き刺したりと、ゴールへ直線的に進む攻撃が得意なチームだった。そのため相手に5バックでスペースを消され、ドイツのスピードを殺すべく構えられると、攻撃の迫力を失った。ドイツの長所を抑えるうえで、5バックは有効な選択肢だった。

 こうした対戦相手の特徴、ゲームプランの視点で言えば、10月のサウジアラビア戦、オーストラリア戦はどうか。

 日本は過去2大会の最終予選で、アウェーのサウジアラビア戦はいずれも0−1で敗れており、最大の難所と言える。アウェーの大声援があるだけに、日本が3バックでスタートした場合、5バック化して押し込まれる時間が長くなるかもしれない。また、アグレッシブに挑んで来る相手だけに、中国戦やバーレーン戦のように日本が押し込み続けるペースコントロールも簡単ではない。そこに挑戦しない場合は、4バックで全体のバランスを均質にし、トランジションに勝機を見出すほうがベターだ。それは日本の長所でもある。

 一方、オーストラリアは突然の監督交代により、読みづらいチームになった。とはいえ、選手の質は以前よりも下がっており、ボールはある程度回せるが、攻撃に脅威はない。現在、一番フィットしている3バックで攻守をコントロールすれば、地力勝ちするだろう。

 このように3バックと4バックを両方持ち、ゲームプランに合わせて選択できればいい。ただし、今の日本の流れを踏まえると、アジアのトップチームとして相手もアウェーも関係なく、今一番やりやすいシステムで2試合にぶつかるのもあり。その場合、3バックの課題も見えてくるだろう。

取材・文●清水英斗(サッカーライター)