「やっとスタート地点に戻れたことで自信がつきました。とはいえ、プロデューサーやディレクター、共演者、ゲストといった周囲の人々は、すごいキャリアや経験、専門性があるのに、私には何もない。

 運が良かっただけでオーディションに受かり、ポッと出てきた私なんて、いてもいなくても一緒だろうなという気持ちは頭の片隅にずっと残っていましたし、決して苦悩しなくなったわけではありません。

 ですがそれでも腐ることなく、特番のときと同様に徹底的に準備を行い、さらにいろいろな試行錯誤を繰り返しながら自分の存在価値を出そうと必死でした」

◆「ツイッターを読むだけでも、どのコメントを選んで読むのか」

 ほかにも、どん底だった頃の奥井さんの考えを、大きく変えてくれた一言があったという。

「ある番組プロデューサーの言葉が私の考えを変えてくれました。

『ツイッターを読むだけなら、私じゃなくても良くないですか?』という私の質問に、『いや、そうでもないんです。奥井さんが番組に映っていることが、番組の緊張と緩和になるんです。それに、ツイッターを読むだけでも、どのコメントを選んで発表するかによって、議論の一手を変えることだってあります。奥井さんの選ぶ視聴者の意見が、思わぬ展開を巻き起こす起爆剤になるかもしれません』と言われたのです。

 その言葉を聞いて、『あ、私にもちゃんと役割があったんだ』という新たな気づきを得ました。

 それまでは、番組における自分の存在価値はないと自分で決めつけていたのですが、実は自分が思っていた以外に価値があったということ。プロデューサーの言葉をきっかけに、それまではなんとなくでしか選んでいなかったコメントの選び方が大きく変わりましたね」

 議論では出てこなかった切り口だったり、聞きたかったけれど聞けなかったことをコメントを通して切り込んでみたり。奥井さんなりに番組のことを考えて、コメントを選ぶように工夫したという。

「すると、ゲストがそのコメントに回答することで議論が深まったり、思わぬ方向に話が飛んだり、時にはその回の金言が飛び出たり。このとき、自分ではちっぽけに思える仕事や役割であっても、実は全然ちっぽけではなく、大きな意味があるんだなと初めて思えたのです。

 私たちは案外、自分で自分の価値を決めつけてしまいがちです。けれど、自分の存在価値を見つけるために、時には素直に人に聞く。その姿勢が大事なんだって教えてもらいました」

◆「自分にできることから貢献しよう」

「職場で存在価値を出すためには、すごい能力や特別な経験は必要ありません。大切なのは、与えられた仕事に対して誠実に取り組む姿勢。小さな仕事であっても、その積み重ねが信頼を築き、結果として存在価値を高めることにつながるのだと知りました。

 じゃあ、『今の私にできることとは? そうだ。まずはチーム内で困っている人のために行動することにしよう!』と決めました。

 自分は特に何のスキルも経験も持ち合わせていない。だから、せめて同僚や隣の席、チームメンバーが困っているのを発見したら、手を差し伸べることにしました。全然使えない、ダメな私にできることは、これくらいしかありませんでした」(奥井さん)

 自分にできることから貢献しよう。そう決意してから、奥井さんは忙しそうな周囲の人たちを徹底的に観察し、人手を欲しているような人がいたら「何か手伝いましょうか?」と一声かけていたという。

「すると、『このあとの会議の資料、コピーしてくれる?』なんてお手伝いを任されたりします。何もすることがなかった私はこれだけでも嬉しかったのですが、ただコピーして渡すだけでなく、見やすくてめくりやすいホチキスの位置を考えて留めたり、大事そうなところに付箋を貼ったり。