J3昇格を目ざすJFL(日本フットボール)の2024年シーズンも佳境を迎えている。9月14〜16日の第20節終了時点では、高知ユナイテッドSCが勝点45でトップ。2位につけるのが同37の栃木シティで、同32のヴェルスパ大分が3位となっている。
そのV大分に先月、鳴り物入りで加入したのが、35歳の元日本代表・金崎夢生である。彼は2007年の大分トリニータ入りを皮切りに、名古屋グランパス、鹿島アントラーズ、サガン鳥栖などで輝かしい実績を残した選手。2016年の鹿島のリーグ制覇もこの男の存在なしには語れなかった。
2023年はJ3のFC琉球でプレー。しかし、22試合出場1ゴールという不完全燃焼に終わり、シーズン末に退団する形になっていた。24年に入ってからは無所属が続き、「金崎は一体、どうなるのか?」という声がサッカー関係者の間でも聞こえてきたほどだ。
そして8か月間の空白期間を経て、8月22日にV大分入りが正式に決まった。彼は9月7日のクリアソン新宿戦で新天地デビュー。65分からピッチに立ち、新たな一歩を踏み出したのである。
「無所属の間は東京を拠点にして、長く師事している木場(克己)さんのトレーニングジムに行きながら、早稲田大学や槙野(智章)君が監督をしている品川CCでトレーニングをさせてもらっていました。
その傍らで、滝川第二高校時代の同級生(落合謙翔氏)が社長をしているCAPTAIN FIVEという会社が主催する『エフ・キャン』にも参加しました。これは子どもたちがプロ選手から直接サッカーを学ぶ場を提供するもので、僕が行ったのは6月の松山、8月の函館の大会だったんですけど、そういう機会は今まで17年間のプロ生活にはなかった。すごく面白かったし、新たな発見もありました。
僕はこれまでずっとクラブに所属し、練習と試合に明け暮れてきたので、自分を客観視することができなかった。今年の空白期間は一度、立ち止まって考える有意義な時間になりましたし、自分はサッカーが好きなんだなと再確認することができました」と金崎は表舞台から姿を消していた時間を振り返る。
“所属先なしの35歳”となると、引退が頭にチラついてもおかしくはない。だが、「40歳まで現役を続ける」という父との約束がある彼は、一度もやめることは考えなかったという。
「僕もいろんなクラブに知り合いがいるので、練習参加できそうなところを探していました。今のヴェルスパの話は8月に入ってからですね。別件で大分に行くことになり、『3〜4日いるから、身体を動かせるところはないか』と名古屋時代の同期である福島新太が強化担当をしているヴェルスパに打診したんです。
本当に最初は練習だけという話だったけど、山橋(貴史)監督も『来てもらえるならどうか』と言ってくれて、自分が最初にプロになった大分の地で再出発するのもありかなと思い、加入を決めました」と彼は言う。
とはいえ、元日本代表FWが4部相当のリーグで再出発というのは、様々な意見があるだろう。稲本潤一や今野泰幸が関東リーグ1部(5部相当)の南葛SCでプレーしている例もあるが、金崎の場合はまだ35歳。もう少し上のカテゴリーを狙えたのではないかという見方もありそうだ。
「僕にとって重要なのは、カテゴリーじゃなくて、『そこで何をしているか』。そのクラブが何を目ざして、どうサッカーに取り組んでいるかが一番大事なんです。
中断時点でヴェルスパは3位で、まだJ3昇格を目ざせるところにいた。だったら本気でその目標を達成するために頑張りたいと思ったからこそ、僕はこのチームを選んだんです」と金崎は語気を強める。
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いったん目標を定めたら、一心不乱に突き進んでいくのが彼らしいところ。最初に日本代表入りした名古屋を離れてニュルンベルクに赴いた時も、そこからポルトガル2部のポルティモネンセ入りした時も、キャリア絶頂期の鹿島を離れて鳥栖に行った時も、常に自らが歩むべき道を明確に定めていた。
「鹿島を離れた時は、『もう自分のやるべきことは全てやり切った』という気持ちでした。毎年、タイトルを狙い続けるのも意味あることですけど、僕は同じサイクルを繰り返すんじゃなくて、違うことをしたかった。その後、名古屋と大分に帰った時、琉球でも自分の役割を全うしようと必死に取り組んできたつもりです。
去年の琉球ではシーズン途中にボランチを志願しましたけど、それもチームを勝たせるために自分に何が最善かを考えてチャレンジしたこと。結局、監督も代わったりしてうまくいきませんでしたけど、ヴェルスパでは勝つために持てる力の全てを注げると思った。そのために再スタートを切ったんです」と金崎は目を輝かせる。
新天地2戦目となった9月16日のブリオベッカ浦安戦。背番号87をつける男は前回より少し早い64分から登場。4−2−3−1のセカンドトップの位置に入り、0−0の膠着状態を打破する攻撃的な仕事を担った。
ライン間のポジションを取りながら起点を作ろうとする彼になかなかパスが入らなかったが、ここ一番の抜け目のなさは健在。76分に自らボールを持ち、ドリブルで局面を打開して最初のシュートを放つと、迎えた85分、右クロスから打点の高いヘディングシュートをお見舞いする。
「これは決まった」と誰もが思う決定機だったが、惜しくも枠の外。山橋監督も「あれを決めてほしかった。得点力に期待しているので、次は決めてもらいたい」とエールを送っていた。
本人は試合勘の不足は感じておらず、スタメンでも行けると考えている。より長い時間プレーできれば、ゴールを脅かすチャンスも増えていくはず。本当のチャレンジはここからだ(後編に続く)。
取材・文●元川悦子(フリーライター)
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