[画像] ほぼすべての保有株を売却した森永卓郎氏が一部の株を「売らずに手元に残している」理由

昨年末に膵臓がんであることを公表した、経済アナリストの森永卓郎氏。森永氏の著書『がん闘病日記』(三五館シンシャ発行、フォレスト出版発売)では自身の父の相続税の申告作業を自分で行った経験から、資産は早めに処分をするべきだと述べています。「生前整理」と一緒に行う投資資産の使い方について、本記事で詳しくみていきましょう。

投資資産の有意義な使い方

私は、父の相続税の申告作業を自分自身でやった。時間に余裕があったのと、相続税の仕組みを自ら経験するなかで学びたいと思ったからだ。

ところが、最終的な相続税の申告の直前に行き詰まった。父のマンションには飛び地の駐車場があり、しかもそれが不整形地だった。その評価をどのように計算してよいのかが、どうしてもわからなかったのだ。

そこで私は、税理士に土地の評価を依頼したのだが、税理士は「自分が関わるのであれば、申告書全体を再チェックさせてほしい」と要請してきた。

たしかに税理士の名前を出す以上、間違った申告書を税務署に出すわけにはいかない。私は最終チェックを依頼することにした。

しばらくして税理士から連絡があった。金貯蓄口座の申告が間違っているというのだ。

純金積立の意外な落とし穴

金貯蓄口座は、純金積立とも呼ばれ、毎月定額で金を買い付ける。といっても、金の現物がやってくるわけではなく、保護預かりになって、解約時にそれまで貯めてきた金をそのときの金相場で精算する仕組みだ。

父が亡くなった直後、私は、父の金貯蓄口座をすぐに解約した。その解約金を相続財産に加えて申告していたのだが、税理士はそれだけでは足りないと言ってきたのだ。

金価格の高騰で、父が積み立てていた純金の積み立ては、購入平均単価よりも売却したときの相場が高くなっていた。だから、別途売却益の申告が必要だというのだ。

私はすでに高くなった金相場に基づいて相続税を払っているのだから、そこにさらに売却益を課税するのは二重課税ではないかと主張したのだが、そういうルールになっているので仕方がないということだった。

早めの行動が、二重課税を避ける

ただ、父の金貯蓄口座をすぐに解約するという私の行動は、結果的に正しかった。

金貯蓄口座だけでなく、土地や建物、株式など相続で取得した財産を売却した場合、相続税の申告期限の翌日以後3年以内であれば、売却益を計算するときの取得費にすでに支払った相続税相当分を加算できるのだ。

具体例で示そう。たとえば、500万円分の株式を相続したとする。それは元々100万円で取得したものだった。

ふつうに計算すると、納めるべき税金は、相続税の税率が10%、株式売却益の税率が20%だと仮定すると、500万円×10%=50万円が相続税、(500万円−100万円)×20%=80万円が売却益税となり、合計130万円の納税となる。

ところが、株式を3年以内に売却した場合は、売却益税が(500万円−100万円−50万円)×20%=70万円となり、相続税の50万円と合わせて120万円となる。納税額が10万円減るのだ。

あぶく銭が自由診療の費用に

売却益税と相続税の完全な二重課税を避けるためには、資産を3年以内に処分することが必要だということになる。もちろん、相続後3年以内だけでなく、相続の前に処分しても、売却益の重税を避けることができる。

私は、この数年、所有していた株式を徐々に処分してきた。相続税のことを考えたというよりも、いまの株式相場が完全なバブルであり、近いうちに大暴落が来ると考えていたからだ。だから、がんの宣告を受けた時点で、投資用の国内株式は、すでに売却済みだった。

ただ、外貨建ての投資信託はそのまま残していた。当面、円安が進むだろうと考えていたからだ。がん宣告のあと、それらもすべて売却した。世界的な株高と円安のおかげで、相当な売却益が出た。

もちろん売却益には税金がかかったが、それでも税引き後の売却益は、当初3ヵ月間の自由診療医療費の半分以上をまかなえる金額になった。

バブル経済で得た資金が、自由診療の費用に消える。まさに泡が泡と消えたと言えないこともないのだが、あぶく銭を遊興費やギャンブルにつぎ込むよりは、ずっと有意義な使い方だったような気がする。

株の保有目的は資産形成だけじゃない?

じつは、私の手元にはまだ少しだけ株式が残っている。それは株主優待目的で保有しているものだ。

たとえば、タカラトミーの株式を一定数持っていると、毎年、株主オリジナルのトミカとリカちゃんをもらえる。だから、コレクションを継続するためには、保有継続が必要になるのだ。

ただ、ここのところの株価は異常なほど高騰しているので、いったん売却して、バブル崩壊後に買い戻したほうがよいのではないかとも思える。どうするべきか、いまのところ資金的には行き詰まっていないので、判断を先送りしているのが現状だ。

森永卓郎

経済アナリスト

獨協大学経済学部 教授