派閥の政治資金パーティー収入を巡る裏金事件の混迷が続く中、今回の総裁選のキーワードはやはり「派閥」と、もう一つは「世代交代」である。

 解散を決めた派閥も含めて11人の内訳をみると、事件の渦中にある安倍派はさすがにゼロ。以下、麻生派1人(河野太郎)▽岸田派2人(林芳正、上川陽子)▽茂木派2人(茂木敏充、加藤勝信)▽二階派1人(小林)。国民から派閥に厳しい視線が注がれている状況を反映して、無派閥の議員が最も多く5人となった(石破、小泉、高市早苗、野田聖子、斉藤健)。

 世代はおおよそ3グループに分かれている。岸田と同年代にあたる60代後半から70代は4人(上川、茂木、加藤、石破)。やや若い60代前半が5人(斉藤、野田、高市、林、河野)。大きく離れた40代が2人(小林、小泉)だ。

 総裁選に出る最初のハードルは、推薦人の国会議員20人を確保できるか否かだ。推薦人を比較的そろえやすい立場にいたのは、もともと岸田派で「岸田の次の総裁候補」とみなされていた林と、自派の領袖だった茂木の2人である。ただし、石破や小泉も、知名度の高さから選挙の顔として期待の声があり、「推薦人は集まるだろう」(党関係者)という見方が大勢だった。

 残りの7人のうち最初にめどをつけたのは小林だった。元幹事長の甘利明が背後にいるとうわさされる一方、閣僚時代に「仕事ができる」と高い評価を受けている。立候補会見には中堅・若手議員が24人同席し、小林は「旧派閥に支援は一切求めない」と強調した。派閥領袖主導の党運営から一気に世代交代を図る狙いだった。だが、同席者の多くが安倍派で、裏金事件で処分された議員の処遇を小林が示唆したため、「どこが脱派閥なのか」と皮肉る声も出た。



2人の重鎮

 乱立模様の中で推薦人の奪い合いを始めた各陣営は、派閥の縛りが緩んだとはいえ、なお一定の議員を動かせる重鎮たちの顔色をうかがわざるを得なかった。その重鎮の代表格が、副総裁・麻生太郎と前首相・菅義偉である。

 麻生は岸田内閣の低支持率に手を焼く一方、岸田と「ポスト岸田」の数人をてんびんにかけ、キングメーカーとして主導権を握ろうとしていた節がある。今年1月には外相の上川を「新しいスターだ」と持ち上げた。ところが岸田が8月14日に突然退陣を表明したため、麻生は重要なカードのうちの1枚を失うことになった。

 さらに、麻生派のデジタル相・河野がしきりに総裁選出馬へ意欲を示した。麻生は、前回の総裁選以降に「仲間作り」を怠ってきた河野への評価をやや下げていたが、自派の候補としてそれなりに助力せざるを得なくなった。

 それでも上川のほか、岸田が推すであろう林、岸田政権における「三派連合」の一角だった茂木らにも目配りし、総裁選の帰趨を見定める構えだ。逆に、麻生が決して乗れないとされるのは石破で、麻生内閣時代に農相だった石破から退陣を求められた件を根に持っている、と指摘されている。

 一方、岸田に追い落とされて3年間無役に甘んじた菅は、その岸田の凋落により、再び存在がクローズアップされた。同じ無派閥の議員たちに大きな影響力を持つが、岸田の退陣表明以降も表向き沈黙を保っていた。

 同じ神奈川県連に所属する小泉と河野、世論調査で常に人気者の石破、自身の内閣で官房長官に起用した加藤らの名前が「本命」としてうわさされ、「菅さんは誰をやるのか」と党内が息を呑んで見守った。最終的に菅が小泉を選んだという情報が流れるとともに、小泉は出馬を表明した。

 最も下馬評が高かった石破は地元鳥取で総裁選への出馬を明言した。過去4回挑戦した総裁選は国会議員票が伸び悩んで苦杯をなめている。野党の主張に近い政権批判の物言いや、党内での仲間作りの稚拙さが敗因とされた。「これが最後の戦い」と言い切った石破は、総裁になった場合、裏金議員を党として公認しないと受け取れる発言もあり、支援議員の中から困惑する声が漏れた。