Vol.141-4

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はマイクロソフト が進めるAI 向けに強化された機構を持つPC の普及。「Copilot+PC」と銘打ったモデルの狙いと普及に向けた課題を探る。

 

今月の注目アイテム

ASUS

Vivobook S 15 S5507QA

直販価格24万4820円〜

↑ASUS初となる次世代AI機能搭載のCPU「クアルコム Snapdragon X Eliteプロセッサー」を採用。ASUSをはじめレノボ、HP、エイサーやマイクロソフトなど、大手PCメーカーから「Copilot+PC」が続々と登場している

 

マイクロソフトとプロセッサーメーカーが共同で仕掛ける「Copilot+ PC」には、これまでにない特徴がある。

 

それは「x86系とARM系が並列に扱われる」「x86系よりもARM系が先に出た」ことだ。CPUが違えばソフトウェアの互換性は失われる。しかし現在はエミュレーション技術の進化により、「x86系CPU用アプリをARM系で使う」ことも可能になった。Appleは「Appleシリコン」をMacに導入する際、CPUアーキテクチャの切り替えに成功した。マイクロソフトも以前よりARM系とx86系の共存を試み、今回はさらにアクセルを踏んだ。はっきりとMacを意識し、「Appleシリコン採用Mac」並みにパフォーマンスとバッテリー動作時間の両立を目指したのである。

 

今回、Copilot+ PCではAMD・インテル・クアルコムのプロセッサー開発タイミングもあり、クアルコムが先行することでCopilot+ PC=ARM系というところからスタートしている。マイクロソフトとしても「本番は3社が揃ってから」という感覚はあったようだが、やはり「Snapdragon Xシリーズ」のパフォーマンスに期待するイメージを受けた人もいるだろう。

 

実際、Snapdragon X+Windows 11のパフォーマンスはかなり良い。筆者も搭載PCを評価中だが、バッテリー動作時間は圧倒的に長くなったし、性能もビジネス向けには十分以上だ。x86系との差を感じることは少ない。ARM版のソフトも増えており、それらを使う場合、はっきり言って想像以上に速く快適だ。

 

ただもちろん、日本語入力ソフトやドライバーソフト、ビデオゲームなど、すべてのソフトが動くわけではない。特にゲームについてはまだARM版がほとんどなく、オススメできる状況にない。そのことを認識せずに使える製品ではなく、“要注意”の製品ではあると言える。

 

だが、ここから出てくるAMDやインテルのCopilot+ PC準拠プロセッサーは、さらに性能が高く、もちろん互換性の問題を気にする必要はない。発熱やバッテリー動作時間を厳密に評価するとSnapdragon Xに劣る部分はあるかもしれないが、「互換性問題がほとんどない」ことと天秤にかけると、安心できるx86系を選びたい……という人も多いだろう。

 

Copilot+ PCがもっと“AI価値がすぐわかる”形で提供されていたら、6月段階からRecallが提供されていたら、イメージはもっと違ったかもしれない。だが、実際問題として“Copilot+ PCの価値はこれから高まってくる”段階なので、AMDやインテルの製品が搭載されたPCを待ってもいい、というのが実情だ。逆に言えば、ここからのPC市場では大手が三つ巴で「PCプロセッサー競争」を進めていくことになるので、競争がプラスに働き、商品性はどんどん上がっていくと期待できる。そこはうれしいところだ。

 

課題は、AMD(Ryzen AI 300)・インテル(Lunar Lake・原稿執筆時には製品名未公開)・クアルコム(Snapdragon X)がそれぞれ別の特徴を持っており、どれを選ぶべきかを判断するための情報が少ない点だ。搭載製品とその情報が出揃うまで、選択は控えた方がいいかもしれない。その頃には、Recallを含めたCopilot+ PCを構成する機能も揃い始めるだろう。

 

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