いま、世間は「夫婦別姓」問題が熱い。『海のはじまり』では、選択的夫婦別姓ならぬ選択的親子別姓(同姓)問題。たしかに夫婦間だけでなく、子供の苗字問題も考える必要はあるだろう。
夏は名前の問題のほか、子育てに2000万〜4000万円かかるとネットで調べて、憂い顔になる夏。老後2000万円問題のまえに子育て2000万円問題が横たわっている。夏がどんどん現実的になっていく。
会社の先輩・藤井博斗(中島歩)が「親がストレスでボロボロになったら子供に二次災害だよ?」と心配していたが、この藤井さんが一番、フラットな存在な気がする。
◆池松壮亮さんのやわらかい話し方だと緩和されるが文字だけだとキツイ
その3:津野くん(池松壮亮)のLINEの勢いがやばい。
特別編で津野くんがやさぐれたり執着したりするのも無理はないと思い直した視聴者も多かったと思うが、夏へLINEを続々と送ってくる勢いはやっぱり少し怖かった。「子育てなめてませんか」という言葉なんてなかなか辛辣(しんらつ)である。
その後、海が図書館に遊びに来て、図書館で海と話しているときは優しそうなのに。池松壮亮さんのやわらかい話し方だと緩和(かんわ)されるが、文字だけになるとキツく感じるようだ。
「子どものことで困るのが生きがいなんだから、あのひとたち」っていう言い方も文字だけだとキツイが、池松さんが話すと毒あるなあとは思うが、ギリギリで留まる。
◆大人と子供が対等に見える演出は『海のはじまり』の新機軸
関わる人を狂わせていく魔性の女・海! 津野と話すときも夏と話すときも、海があどけない幼女というより、すっかり成熟した女性のように見える。『海のはじまり』が新機軸だと思うのは、これまでのドラマにあった、保護する大人と保護される子供の関係性に見られる、大人は強くて子供は弱いという先入観ではなく、大人も子供と対等で、なんなら恋愛ものにも見えるような演出をしているように見えることである。
どんなに演技が大人びている子役――例えば芦田愛菜を起用したとしても『マルモのおきて』の阿部サダヲと芦田愛菜、『ビューティフルレイン』の豊川悦司と芦田愛菜など、芦田愛菜はあくまでも大人びた子供だった。
一方、泉谷星奈は何もかもわかったうえで男性を振り回している感じがして、子役の概念を超えている。図書館で津野と話しているときの無警戒な仕草とか、夏と話すときのじとっとした瞳とか、フランス映画などの小悪魔キャラ見えてしまう。そうか、わかった、藤井がフラットなのは海と関わっていないからかもしれない。
<文/木俣冬>
【木俣冬】
フリーライター。ドラマ、映画、演劇などエンタメ作品に関するルポルタージュ、インタビュー、レビューなどを執筆。ノベライズも手がける。『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』など著書多数、蜷川幸雄『身体的物語論』の企画構成など。Twitter:@kamitonami
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