[画像] 通行無料も「トイレは有料」それどこの高速道路?


一見、日本のようだが、ここはオーストリア・グラーツ近郊のサービスエリアだ(筆者撮影)

通行料金を支払えば、途中のサービスエリアやパーキングエリアのトイレなどは無料で使えるのが、日本の高速道路である。しかし、世界に目を向ければ、そのシステムが“当たり前”でない場合もある。

この8月、ドイツ、オーストリア、チェコの高速道路をめぐる機会を得た。そこで、今回の旅を通じて得た、現地の高速道路事情をお伝えしたい。


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ドイツの高速道路については、通行料や制限速度などへの関心が高く、ネット上でもさまざまな記事が上がっているので、サービスエリアや標識などあまり取り上げられないテーマを含めて紹介する。

今回の旅は、ウィーン国際空港のレンタカーオフィスが出発地。ここで、フォルクスワーゲンの代表車種である「ゴルフ」のワゴン「ゴルフ ヴァリアント」を借り、1週間、オーストリア中西部(グラーツ、ザルツブルク、ヴァッハウ渓谷)、ドイツ東南部(アウクスブルク、レーゲンスブルク、ケムニッツ)、チェコ西部(カルロビ・バリ、ピルゼン)をひと筆書きで、およそ2200km走行した。

有料化が進むアウトバーン

ドイツの高速道路、いわゆるアウトバーンの通行料が「無料」であることはよく知られている。しかし、それは普通車の話で、大型トラックは12トン以上の場合、1995年から有料となり、2015年には7.5トン以上に引き下げられた。

今回、現地に行ってみると、標識には「3.5トン」以上に料金がかかると書かれているのに気がついた。


3.5トン以上の大型車の「有料」を示す標識、ドイツのアウトバーンにて(筆者撮影)

調べてみると、今年7月からさらに有料となる対象が、3.5トン以上へとさらに引き下げられたとのことである。

オーストリアからドイツに入る国境には、そのことが大きく標識に書かれており、対象のクルマは別のレーンに入るよう誘導されていた。

【写真】SA/PAの内部も!ドイツとオーストリアの高速道路をもっと見る

1990年の東西統一以降、ドイツは旧東欧地域と西ヨーロッパを結ぶ物流の回廊の役割を担うようになり、アウトバーンは大型車がひっきりなしに行き交う「トレーラー街道」となった。

当然、道路の傷みも早いため、税金で運営されるアウトバーンは、維持管理費の一部を大型車に求めるようになった。これが大型車有料化の背景である。

ちなみに、オーストリアの高速道路は有料で、小型車は利用日数に合わせたシールを購入し、クルマのフロントガラスに貼る「ビネット」方式。近年は、あらかじめ車両を登録する「デジタルビネット」もある。

ドイツとオーストリアのSA/PA事情 

サービスエリア/パーキングエリア(SA/PA)については日本と同様、ガソリンスタンドと飲食店、雑貨店(コンビニなど)がフルに入っている規模の大きな施設と、駐車スペースとトイレだけの施設がある。


オーストリアのウィーンからグラーツへ向かう途中のサービスエリア。マクドナルドがテナントのメイン(筆者撮影)

大規模な施設では、まず必ず最初にガソリンスタンドがあり、そこを通り抜けて初めて飲食ができる別の棟が現れる。その棟も、マクドナルドだけが入っているところ、数店舗が並んで日本のフードコートのようになっているところなど、さまざまだ。

日本人の感覚でちょっと戸惑うのは、オーストリアでもドイツでもSAのトイレが有料であること。オーストリアでは0.5ユーロ(およそ80円)、ドイツでは1ユーロ(同160円)のところが多かった。


オーストリアのサービスエリアで見た有料トイレの入り口(筆者撮影)

SAでは必須かつもっと大事な設備であるトイレが有料であることは、「トイレは無料」という感覚を持つ日本人からすると、「それはどうなの?」と思う部分はある。

ドイツでは、高速道路の通行そのものが無料(普通車)なので、仕方がない気もするが、通行が有料のオーストリアでは、「さらにトイレにお金を払うのか……」と思ってしまう。

とはいえ、ドイツもオーストリアも、公共のトイレや観光地のトイレも基本的にすべて有料なので、現地の人にとっては自然なことなのだろう。

SAでの食事は、日本ほどバラエティに富むわけではなく、地元ならではの名物が食べられる楽しみもないが、手早くお腹を満たすという意味では十分、満足の得られる水準である。


フードコートのメニュー。ドイツ・レーゲンスブルク近くのサービスエリアにて(筆者撮影)

一般のレストランに入ると、注文してから料理が手元に届き、支払いを済ませるまでにかなり時間がかかる。日本のお蕎麦屋さんやラーメン屋さんのように「20分で済ます」ということが難しい。

その意味でも、SAでの気軽な食事は、日本からの旅行者には心理的にも時間的にもありがたいものだ。

ただし、ヨーロッパはいま、物価高である。簡単な食事と飲み物(日本のように無料の水やお茶は出ない)を取っただけで、1人15〜20ユーロはかかってしまう。日本円に換算すると2400〜3000円だ。

きちんと計算すると心臓に悪いので、旅行中はレートを過度に気にしないように心掛けた。

ドイツとオーストリアにある意外な「同じ標識」

ヨーロッパでは、国境を越えると新たに入る国の制限速度が、大きく表示される。高速道路の制限速度は、ドイツ、オーストリア、チェコの3カ国とも「時速130km」だった。


ドイツの制限速度を示す標識。これによると高速道路は時速130kmとなっている(筆者撮影)

ドイツのアウトバーンは、速度無制限の区間もあるが、近年は州、あるいは走行環境によって速度制限が設けられることが増えており、時速130kmとなっている区間が多い。速度制限のないところも、時速130kmが「推奨速度」とされている。

あまりに速度が高いと、事故が起きたときの人体や道路への影響が大きいことに加え、燃費が著しく悪化してCO2排出量が増えるためである。

ドイツとオーストリアの道路標識で、共通していることがひとつある。それは、次のインターチェンジ(IC)で降りるとどんな観光施設や遺跡があるかを示す、イラスト入りの大きめの標識だ。しかも、色は白と薄茶色の2色のみで、施設・遺跡名だけがシンプルに書かれている。


「世界遺産 レーゲンスブルク」という文字とユネスコのマークが描かれている(筆者撮影)

とても地味で宣伝文句はいっさいないが、逆にそれが「どんな施設だろう?」と興味を掻き立ててくれる。ドイツもオーストリアも同じドイツ語文化圏ではあるが、標識の体裁までが統一されているのは意外な気がした。

普通の標識、例えばIC出口の行き先表示などは、両国で標記方法が多少違うだけに、観光情報の標識が統一されていることが、なおさら不思議であった。さらに、都市の中心部全体が世界遺産になっているような場合は、都市名と世界遺産であることだけが表示されているのも興味深い。

世界遺産「ハルシュタット」への道でトラブル

今回は、夏の観光シーズンにもかかわらず、ウィーン市内の高速道路を除けば渋滞にはほとんど遭遇しなかったが、一度だけまったくクルマが動かなくなる、ひどい渋滞に巻き込まれた。

そこで驚いたのは、地元のドライバーたちの行動である。交通情報などで情報を得て動く見込みがないことを知っているのか、クルマを降りてサンドウィッチを頬張るなど、思い思いに過ごし始めたのだ。そんな様子を見たら、こちらは逆に焦ってしまう。


通行止めとなって迂回することになったトンネルの入り口付近(筆者撮影)

「いつまで足止めされるのか……」と思って、スマホのグーグルマップを見ると、少し先のトンネル内で事故が起きたことを示している。「これはしばらく通行できないだろうな」と、半ばこの日の予定遂行を諦めかけたころ、クルマは動き出した。

ようやく通過できると安心したのだが、車列はトンネルの手前で細い1車線の坂道を上がっていく。トンネルを避ける迂回路があるのかと思ったが、前のクルマについていくと、出てきたのは反対車線のまったく同じところ。トンネル内は通れないから「来た道へ戻りなさい」ということだった。

いつまでも待たされるよりも合理的ではあるが、これにより50kmほど遠回りすることになり、渋滞で立ち往生していた時間も含めて、約2時間のロスだ。

しかし、周囲のクルマを見ても怒りをあらわにしている人はおらず、きわめて静かに迂回を受け入れていた。「大人の国」だからなのか、めずらしくないことだからなのか、少し不思議に思いながら世界遺産のハルシュタットへの道を急いだ。


ドイツ・ケムニッツ付近の高速道路。基本的に渋滞は少なく、流れも速くて快適だ(筆者撮影)

さて、ドイツは日本よりも少し狭い程度の国だが、国土のほぼ全域に稠密(ちゅうみつ)に高速道路網が張り巡らされている。

オーストリアの面積は8.4万km2と北海道とほぼ同じで、国全体にアルプスの山岳地帯が広がっているので、アウトバーンとそれに準じた高速道路網は総延長2200km程度と多くはない。しかし、主要都市の多くが高速道路で結ばれており、利便性は相当高い。

一方で、両国は世界でももっとも先進的な「環境大国」であり、人々の移動には鉄道が推奨されている。そのためか、少なくとも昼間は、高速道路を行き交う路線バス、つまり日本でいう「高速バス」はほとんど見なかった。


大型トラックは頻繁に見かけたが、バスの姿はほとんどなかった(筆者撮影)

オーストリア連邦鉄道(OBB)は、国境を越える長距離列車の運行に積極的だ。2016年に廃止された夜行特急、シティナイトライン(CNL)の後継の運行を名乗り出たのもOBBであった。

また、両国とも中程度以上の都市には、必ずトラム(路面電車)や架線から電気を受けて走るトロリーバスが都市内の人々の移動を担っている。繁華街にはクルマは入れず、歩道とトラムのみ、というところを今回もかなり見た。


世界遺産、グラーツ歴史地区を走るトラム(筆者撮影)

オーストリア第2の都市グラーツ、ロマンチック街道最古の都市であるドイツのアウクスブルク、ピルスナービールの発祥の地、チェコのピルゼンなどがそうである。

高速道路による収入を鉄道に充てる政策

驚くべきは、今年7月から3.5トン以上まで有料化の対象を拡大したドイツでは、増収分のおよそ半分を鉄道の改修等に使うと決まったことだ。慢性的な赤字に悩み、廃止も視野に入った路線が多い日本の地方の鉄道に、高速道路の収入を充てるなどという政策は、わが国では絶対といってよいほど実施できないであろう。

物流は高速道路、人々の移動は鉄道。もちろん飛行機も重要だが、「飛び恥(Flight Shame)」の掛け声のもと、鉄道と競合する短距離の航空路線を廃止し、移動を鉄道に委ねるという政策もフランスなどでは浸透している。

この夏、日本のみならず、世界各地で地球温暖化による猛暑、洪水、旱魃(かんばつ)が多発したが、人々の移動に使われる化石燃料をいかに抑えるか、そんなヨーロッパの苦闘が垣間見える夏の旅であった。

【写真】ドイツとオーストリアの高速道路を写真で振り返る

(佐滝 剛弘 : 城西国際大学教授)