[画像] アクションカメラ王者「GoPro」が赤字転落の理由


「199ドル」。アメリカ・ゴープロが新製品で驚きの価格を発表した(ユーチューブ映像から)

アクションカメラ大手のアメリカ・ゴープロが9月4日、新たな最上位モデル「GoPro HERO13 Black」(6万8800円)を発表した。今回、特に業界関係者の注目を集めたのは同時発表したエントリーモデル「HERO」(3万4800円)だ。


エントリーモデル「HERO」は3万円台から購入できる(写真はゴープロ)

HEROは最上位モデルの約半額となる破格の価格設定が売りで、現行のシリーズで最も安い。機能を厳選したことで過去最小かつ最軽量を実現しながら4K撮影も可能としており、ファミリー層や若者など幅広い新規ユーザーの獲得を狙う。ニッチなコア層で絶大なブランド力を築いてきたゴープロだが、先細り懸念に直面しており、新たな戦略を打ち出した形だ。

「GoPro1強」時代はすでに終焉

GoProはスポーツやアクションの臨場感ある動画を高画質で撮影できる小型カメラとして、世界中に根強いファンがいる。サーフィン好きだった当時22歳のニコラス・ウッドマンCEOがアメリカ・カリフォルニア州で2002年にゴープロを設立し、アクションカメラという新たなジャンルを切り開いてきた。


創業者でCEOのニコラス・ウッドマン氏も新製品発表会見に登場(ユーチューブ映像から)

従来のビデオカメラになかった激しいスポーツでも手軽に使える特徴と、強烈な個性がうけ、2010年代のアクションカメラはGoProの独占状態だった。だが、ここ最近は中国メーカーが台頭。類似する商品が次々に投入されたことで、競争が激化している。

ドローンの世界的大手である中国DJIは2019年に「Osmo Action」を発売し、アクションカメラ市場に本格参入。特に2023年10月に発売した新製品「Osmo Pocket3」の勢いはすさまじい。

全国カメラ製品の販売POSデータを集計するBCN総研によると、メーカー別シェアで、DJIは新製品発売後の11月に33%を記録し、首位に急浮上。これまでおおむね10%台で、3位から4位が定位置だったが、王者GoProを追い抜いた。

また全天球カメラを展開する中国Insta360も2020年に「Insta360 One R」を投入し、360度撮影可能なアクションカメラという新たなジャンルを切り開き、人気を博している。

GoProは新製品が出るたびに購入する熱烈なリピーターが多いのが特徴だが、既存ユーザーの中には「他社の進化がすさまじく、あえてGoProを選ぶ理由がなくなりつつある」という声も出ている。

こうした中国メーカーの製品は、GoProと比較しても機能性に遜色がなくなっている。さらにGoProよりも若干安価な製品を提供することで魅力が増しており、”GoPro1強時代“は終焉している。

GoProの販売台数の推移をみると、2015年に約660万台を出荷しピークに達した後は徐々に減少、2023年は約300万台と前年から下げ止まったものの、ピーク時の半分以下にとどまっている。

ビックカメラ有楽町店で、カメラ販売を担当する乙川和矢氏は「かつてはGoProを指名買いする顧客が多かった。だが、今では中国メーカーの製品も性能がよくなり、用途に応じて多様な提案をしている」と語る。

日常使いで中国系メーカーが台頭

DJIの「Osmo Pocket」シリーズの特徴は、同社のドローン技術を応用した「ジンバル」がカメラを支える構造にある。ジンバルは一般的な電子式の手ブレ補正と異なり、物理的にカメラを動かす仕組みで、より精密に手ブレを防ぐことができる。手に持っていても安定感のある撮影ができる点が高く評価されている。


中国DJIはビックカメラ有楽町店で幅広いブースを新設し、専門の販売店も配置する(記者撮影)

さらに、アクションカメラの中では最大級の1インチのセンサーも搭載しており、暗い場所でも高品質な撮影が可能だ。「高い防水や防塵性能を備えるものではないが、街での撮影に適している。撮影が苦手な方にもおすすめできるモデル」(前出の乙川氏)。

また、DJIは販売店と密な連携を図るメーカーとして知られる。ビックカメラ有楽町店では今年、カメラフロアを刷新すると同時にDJIブースを新設。ドローンとアクションカメラの展示に加え、メーカー専門の販売員を配置した。取材時にも通路を行き交う多くの老若男女が立ち止まり、商品を手に取る姿が目立っていた。

近年、SNS上の動画投稿が盛んになるにつれ、アクションカメラの使用シーンは拡大している。従来はGoProが得意とするスポーツやアウトドアでの撮影が主流だった。コロナ禍を経て行動制限がなくなった今は、日常の風景や旅先での思い出を記録する「Vlog(ビデオログ)」向け需要が若者中心に高まっている。


風景や旅先の思い出を記録する「Vlog」向け需要でアクションカメラが盛り上がっている(記者撮影)

ある調査によれば、日本を含むアジア圏は他の地域と比較して、若い女性などが自撮りカメラとしてアクションカメラを購入する傾向が高いという。中国メーカー各社はこうした新たな需要を捉え、GoProの機能を後追いするだけではなく、独自性のある商品も次々に投入することで持続的な成長を遂げている。

実際、アクションカメラ市場の製品更新のサイクルは約1年で、通常のビデオカメラより短い。ゴープロが市場を作って20年以上経つ中で、コモディティ化も進んでおり、新製品が出るたびに旧製品の値下げもあり、価格競争が激しくなっている構図だ。

セールや値下げ競争激しく赤字転落

こうした環境変化の中で、もがいているのがゴープロだ。

ゴープロは2023年12月期に営業赤字に転落。直近の四半期決算(2024年4〜6月)まで6四半期連続で赤字が続いている。8月には2024年末までに全従業員の約15%に相当する約140人を削減すると発表し、大幅なリストラにも着手した。

創業者のウッドマンCEOは最新の決算説明会で業績悪化の原因について言及。在庫を圧縮するためにセールを行ったこと、価格改定による値下げ戦略が失敗したと認めたうえで、「2024年度は変革に集中する1年だ。2025年度にシェアを取り戻し、収益改善を見込む」と強調した。

ゴープロは実はこれまでも赤字を繰り返している。スマートフォンカメラの高性能化やドローン事業の失敗が重なった2016年度から5期連続の赤字を計上。当時も大規模な人員削減を実施している。

その後、GoProのユーザーが作った膨大なコンテンツを管理・保存・編集できるソフトウエアやクラウドストレージのサブスクリプション(定額課金)提供などハードウエアに頼らない戦略を推し進め、2021年に黒字化を果たしたばかりだ。

再び赤字に陥った今、どう抜け出すのか。新製品の裾野拡大とともに、新たに販路も見直す。ゴープロはソフトバンクC&Sと販売契約を締結し、ヨドバシカメラやヤマダ電機といった大手家電量販店での取り扱いを強化すると表明。中国DJIなどが強い量販店などとの関係構築に踏み出す。

これまでゴープロはダイビングショップなどスポーツ専門店への販路に強みがあった。今回の提携で従来の販路に加え、より広範な消費者層にアプローチを図る狙いだ。

ヘルメットメーカー買収でコア層強化も

一方、従来のコア層にもアプローチを広げる。ゴープロは欧米を中心にスポーツの大会をスポンサードするなど振興に注力し、強固なファン基盤を築いてきた。

その中でも、モータースポーツはブランドビジネスの中核を担う分野。2024年1月にはオートバイ用ヘルメットメーカー「Forcite」社の買収を発表した。

同社はカメラやインカム機能を搭載したスマートヘルメットを開発するオーストラリアの企業で、今後共同でゴープロ独自ブランドのヘルメットを開発すると明かす。また、他のヘルメットメーカーとも提携し、OEM(相手先ブランドによる生産)供給することで事業拡大を図る方針だ。

ゴープロで国内のマーケティングを担当するイ・スホン氏は「スポーツやアウトドア分野で根強いファンやクリエイターがいることがわれわれの強みだ。これからもコアユーザーを大事にしつつ、ファミリー層や若者など新規ユーザーにも焦点を当てた戦略を展開する」と意気込む。

アクションカメラ市場の裾野が広がる中、かつての王者は新製品の発売を足がかりに再び輝くことはできるのか。今後の動向に注目が集まる。

(山下 美沙 : 東洋経済 記者)