支援をするうえで、必要に応じて子どものそういった生まれ持った脳の特性や精神状態を評価し、その子どもに合った適切な環境をゴール設定とすることが何よりも大切だと私は考えます。子どもの不登校によって追い詰められた親御さんへのサポートも、もちろん大切ですが、何より学校に行くのは子どもなのですから、子どもへの介入も必要だと考えています」(以下、さわ先生)

※1「心理学的剖検データベースを活用した自殺の原因分析に関する研究」(研究代表者:国立精神・神経センター 精神保健研究所 加我牧子)より

◆自傷行為を過小評価してはならない

 X上にはスダチのサポーターのアカウントがいくつもあり、「小6女子がサポート12日目に再登校です」といった成果報告が投稿されています。

 そこには「子どもがベランダに足をかけたり暴言を吐いたり」することを「親御さんに対して強い揺さぶり」としたり、「過敏性腸症候群を大義名分に3か月不登校」といった表現や、自傷行為が見られる小学生に支援を行ったケースも報告されています。

「病気を“大義名分”としていますが、医療の現場で『疾病利得』という考え方があります。これは病気や疾病によって患者さんが得られる、心理的、社会的、経済的なメリットのこと。例えば、うつ病と診断されることで会社に行くというその人にとってつらいことを避けることができますよね。精神科医は、『この人にとって、病気であるメリットは何だろう』といったことも考えながら、慎重に治療方針を決定していきます。

しかし、それは身体科の医師、精神科医や、臨床心理士、公認心理師などの専門家が正しく判断するべきことです。子どもはストレスが腹痛や吐き気、頭痛などの身体の症状となって現れやすいのです。たとえ器質的な異常(病院の検査などで確かめられるような異常)がなかったとしても、実際に痛みを感じ、苦しんでいる子どもがいるのです。

また、10代のときにリストカットなどの自傷行為を一度でもしたことのある人は、したことがない人に比べて、10年以内に自殺によって死亡するリスクが何百倍も高くなるというデータ(※2)もあります。『試しているだけだから心配いらない。死ぬことはない』と精神科医は絶対に言いません。むしろ、自殺リスクが高いことを伝えておく必要のある危険因子なのです。このような知識がどこまであるのか、非常に心配な部分です」

※2 Owens,D.,Horrocks,J.,House,A.:Fatal and non-fatal repetition of self-harm. Systematic review.Br J Psychiatry,181;193-199,2002

◆過度な制限は子どもの居場所を奪うことに繋がる

 不登校児の親の多くが悩むことの一つとして「ゲームやスマホのやりすぎ」があります。

 スダチでは、代表・小川涼太郎氏がYouTube動画にて「基本的に我々は電子機器に関してはゼロにしましょうと(親御さんに)提案しています」と話していることからも、スマホやゲームの制限を徹底させる方針をとっていることがうかがえます。

「この方法で成功する例もあるとは思うのですが、親子関係がそもそも安定した関係を築けていないケースにおいては、極めて危険な方法だと思います。ゲームやネットの世界にハマる子どもたちの中に、その世界が唯一の心が安心できる場所となっている子どももいます。

もしも、家庭内が心の安全基地となれていない場合に、唯一の心の居場所までも奪うことになってしまうのです。前の記事でも述べたように、子どもは大人よりも先の見通しを立てることが難しく、現実がうまくいかないときに、心理的に追い込まれやすいのです。追い詰められた子どもが死ぬしかないという発想になるリスクがあることを知ってほしいです」