◆処理水排出問題で中国人富裕層の悩みは…

 2023年8月の福島原子力発電所の処理水排出問題で、 日本の新鮮な魚介類の中国への輸出が制限されている。日本の魚介類を好んでいた中国の富裕層は、日本に来て食べるしかなくなっている。

 処理水排出は、政治的な問題であり、どうしようもできない難題でもある。逆に言えば、そういう問題があるから日本に来てもらっている中国人も多く存在するようだ。

 また、中国で高級魚介類の輸入事業をしていた経営者が、輸出禁止の煽りを受けてしまった話も聞く。わざわざ日本に来て法人を設立し、中国に向けて魚介類の輸出事業をしていた中国人経営者は、債務超過に陥り、入国管理局(出入国在留管理庁)から経営管理ビザの更新ができずに、大変な思いをしているそうだ。

 中には闇ルートを通じて日本から中国に運んでいる者もいるそうだが、逮捕されたら罰金3000万円と破格だという。そこまでリスクを負いながら密輸する人がいるのは、それだけ日本の新鮮な魚介類に魅力があるからであり、日本への旅行者が増えるのはよく分かる。

◆海外における日本食レストランが増大

 今は国内市場の縮小化を背景に、外食大手が海外市場を開拓したり、腕のある職人が海外で自分の店を開業したりと、日本食が海外で広く浸透している。寿司やラーメンなどは特に人気のようだ。そこで日本の店が提供する料理を味わい感動した外国人がもっと日本を知りたい、本場の料理を食べたいというニーズが高まり、旅行者の増大につながっている。

 政府は外国人観光客を増やして観光立国にし、失われた30年でデフレ慣れした日本国内を刺激し、インフレ傾向に誘導するのが狙いだろう。官民一体となって力を入れるであろう。

 ちなみに2023年の海外における日本食レストランは、2021年の約15.9万店から約2割増の約18.7万店だ。推移は約2.4万店(2006年)→約5.5万店(2013年)→約8.9万店(2015年)→約11.8万店(2017年)→約15.6万店(2019年) →約15.9万店(2021年)→約18.7万店(2023年)と、年々順調に増えている。

 地域別増減は、アジア約2.1万店増、中南米約0.7万店増、欧州約0.3万店増、北米約-0.3万店である(令和5年11月21日農林水産省発表)。

◆昔の面影がなくなった大阪「黒門市場」

 現在の大阪ミナミや新世界などの観光地は、訪日外国人観光客が多すぎて前が歩けない状態だ。日本人を探すのが大変になっている。インバウンドは低迷する日本経済を活性化させてくれるが、良き伝統や文化を消滅させる場合もある。

 大阪の台所を代表してきた「黒門市場」(大阪市中央区)も訪日外国人旅行者で溢れており、彼らをターゲットにした飲食店が増えている。黒毛和牛、新鮮魚介類などを販売する小売店がイートインスペースで飲食させており盛況だ。

 高いお金を払っても日本の高級食材を食べることでステータスを感じたい外国人のお金の使いぶりは半端ではなく、1本4000円の神戸牛串を何本も注文し、大トロで有名な店には若い外国人カップルで行列ができている。

 商店街は高級和牛店、高級寿司店、高級マグロ店、タラバガニなど海鮮焼き店を販売する店でテナントミックスになっているようだ。その結果、地元客はあまり来られない商店街になっている。

◆昔はこんな商店街ではなかった

 そもそも黒門市場は、天下の台所と呼ばれた大阪で、新鮮な魚や野菜が揃うから、買い物客に親しまれてきた市場だ。しかし、バブル崩壊し、勢いを失ってしまった。

 だが、インバウンド需要が2011年頃から増え始め、黒門市場の来街者はコロナ前の2019年には1日あたり約3万人と2.3倍に増えた。商店街には、外国語(中国語、韓国語)が飛び交い、本場の神髄を極めた「ほんまもん」の食べ歩きが訪日外国人観光客の観光スタイルとして定着し話題になった。