一方で、エヌビディアを追う半導体大手、インテル とアドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD) はどうか。AMDは8月19日にサーバー大手、ZTシステムズの買収を発表するなどAIサーバー向け半導体事業は好調だが、先日、同社のCPU(中央演算処理装置)に複数の脆弱性が見つかった。ただし、これに対しては修復パッチを提供する模様だ。

 状況が悪いのは2024年4-6月期決算で赤字が拡大し、1万5000人規模のリストラを発表したインテルだ。業績もさることながら、主力のCPUで設計ミスによると思われる不具合が発生し、クラッシュが多発する事態が発生しているのだ。同社は大手半導体メーカーの中で完全にAI戦略で出遅れ、株価もただ1社、"蚊帳の外"といった感で低迷していたが、これによってさらにマーケットの評価を落とした。AI半導体の劣勢に加え、得意のCPUでケチが付いたのだから、当面は厳しい状況が続くと見ざるを得ない。

◆AI相場はまだ始まったばかり……リスクは大統領選とリセッション

 最後に今後の米国株市場の行方を考えてみたい。8月初旬の暴落局面は脱したと言えるが、今後の大きなリスクは二つある。まずは11月の大統領選だが、これは最後の最後まで結果が分からない。市場にとってどちらが望むべき大統領なのかも現時点では一概には言えないが、ドナルド・トランプ氏の暴言癖がマーケットにとって好ましくないことは確かだろう。その点、カマラ・ハリス氏はある意味安定しているのではないか。ハリス氏なら、株式市場を必要以上に混乱させるような言動は取らないのではないかという安心感がある。

 もう一つのリスクは、米国経済のリセッション(景気後退)だ。私は8月の荒れ相場の根本的な原因も、AIバブルの崩壊などではなく、この問題が大きかったと考えている。相場の急変動は、マーケットがリセッションの気配を感じて株式市場との間合いを測ったことによって生じたのではないか。

 現在、出てきている各種の統計を見る限り、インフレが鈍化する一方で消費は堅調で、ソフトランディングへの期待も高まっているが、夏の各社決算でもリセッションを予兆させる結果はところどころで見られた。例えば、マイクロソフトの法人部門やグーグルの「YouTube」広告の売り上げ鈍化、アマゾンのEC部門の増収率と利益率の低下などだ。もし本格的にリセッションへと突入すれば、株式市場から投資マネーが一時的に流出することも覚悟しなければならない。

 とは言え、生成AIに関して言えば、これまで述べたようにまだ一部の専門家に浸透し始めた段階に過ぎない。社会のボリュームゾーンに行き渡るには、少なくともまだ数年、大企業のシステムに本格的に導入するならそれ以上、7~8年はかかるかもしれない。その間、当然波は出てくるのだが、中長期的に生成AIへの投資の流れは継続していく。市場拡大はまだ始まったばかりなのだ。

 投資対象もGAFAMや半導体メーカー、サーバーメーカーだけではない。次の段階では、IBM 、オラクル 、セールスフォース といったシステムインテグレーターやソフト大手がAIの普及を担うことになる。さらにAIの社会全体への普及を考えれば、著作権やセキュリティーは避けて通れない大きな問題だ。その意味では、ITコンサルティング企業が活躍するフィールドも広がるのではないか。例えばアクセンチュア などの企業だ。少なくとも中長期でこうした銘柄を保有するというのも悪い選択ではないだろう。

 いずれにせよ、やはり最注目は今週木曜日(アメリカ時間8月28日、日本時間8月29日早朝)のエヌビディア決算となるだろう。もし、ここで市場予想を上回るサプライズが示されれば、AI懐疑論は修正されるのではないだろうか。今年になってからのAI相場の真贋を見極めるうえでも、同社決算からは目を離せない。

【著者】
今中能夫(いまなか・やすお)
楽天証券経済研究所チーフアナリスト 

1961年生まれ。大阪府立大学卒業。岡三証券、シュローダー証券、コメルツ証券などを経て2005年より現職。1998~2001年、日経アナリストランキングソフトウェア部門1位、2000年、同インターネット部門1位。ハイテク業界、半導体業界を対象にした綿密な企業分析に定評がある。楽天証券の投資家向けサイト「トウシル」で注目企業の詳細な決算分析動画およびレポートを随時、公開中。



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