◆引き続き旺盛な生成AI需要を示したハイテク決算

 この1カ月、日本株市場同様に大きく揺れ動いた米国株市場だったが、そうした外的要因はひとまず脇に置き、ハイテク各社の決算に焦点を当ててみたい。今回の決算とマーケットの反応をひと言で総括すると、米国株市場は「事業としてのAI(人工知能)は本当に儲かるのか」を見定める段階に入ったと言えるだろう。

 まず、各社の決算を見てみると、引き続き、生成AIへの需要は旺盛であることが分かる。マイクロソフト の2024年6月期決算発表によると、「Chat(チャット)GPT」を搭載した同社の生成AIサービス、「Copilot(コパイロット)」の普及は着実に進んでいるが、マイクロソフトの業績を持ち上げるところまでには至っていない。ただし、生成AI関連の需要自体は活発で、同社のクラウドサービス、「Azure(アジュール)」の設備が需要に追い付いていない状態だという。

 アマゾン・ドット・コム は、前回の24年1-3月期決算で、生成AI関連売上高の累計がすでに数十億ドルになったと発表していたが、24年4-6月期決算でも「AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)」がAI需要によって前年同期比19%と大幅な増収となり、AIサーバー首位のスーパー・マイクロ・コンピューター の24年4-6月期決算でも、AIサーバーの受注残が過去最大となったと発表された。

 ただし、AWSやアジュールを始めとした大手クラウドサービスの顧客は、現時点では生成AIそのものの開発や生成AIを使ったアプリケーションソフトの開発需要が中心で、生成AIを組み込んだ情報システムを企業が運用するところまでには広がっていない。業績を見ても、いまのところ生成AIが事業全体に目立った収益貢献をするまでには至っていない。

 こうした状況を受けて、生成AIは騒がれているほどの社会的なニーズはないのではないか、という声も聞く。そうしたAIへの懐疑論が、8月初めの株価暴落を呼んだ一因であることは確かだろう。だが、エンドユーザーに生成AIが普及していくためにはまだいくつかのプロセスが必要だ。例えば大企業の現場に降りていくには、企業ニーズに応じて各種の生成AIを組み込んだ大規模なシステム構築が必要だし、著作権などの問題もクリアしなければならない。社会全体に普及していくにはまだ相応の時間がかかるのだ。

◆メタはAI活用法で成功、グーグルは一歩後退か?

 一方、生成AIの普及がいち早く進んでいる分野といえば真っ先に挙げられるのが広告だ。生成AIが登場した初期から、広告クリエイターたちは画像やイラストの作成に活用しているが、いまではオープンAIのチャットGPTはもちろん、アドビ の「Firefly(ファイアフライ)」や、グーグル(アルファベット )の「Gemini(ジェミニ)」など、各社の生成AIを使い分けるクリエイターも少なくない。

 また、マイクロソフトの説明では、同社の有料ソフトウェア管理サービス「GitHub(ギットハブ)」を通してソフト開発者やプログラマーなどの専門家の多くがコパイロットを使い出している。つまりクリエイターやプログラマーなどの専門分野では、すでに十分に生成AIが活用されているということだ。

 生成AIの広告活用という点では、メタ・プラットフォームズ のケースが分かりやすい。ネット広告の世界では、以前から各社各様のAIを使ってユーザーの嗜好を分析するターゲティング広告を運用してきたのだが、広告AIをさらに進化させることでターゲティングの精度を向上させた。さらにフェイスブックやインスタグラムなどに出稿する広告主に対して生成AIを提供し、広告の制作と配信の両面を強化した。全世界で30億人を超えるユーザーを持つ同社の強みでもあるだろうが、生成AIが主力事業である広告事業の底上げに結び付いているのだ。