俳優の黒沢あすかさんが、梅沢壮一監督の『歩女(あゆめ)』に主演しました。交通事故で記憶の一部を失った主人公の女性が、生きもののような不思議な“靴”に導かれ、自身の過去にまつわるおそろしい真実を知る新感覚サスペンスで、夫でもある梅沢監督と二人三脚で、これまでにない役柄、作風にご夫婦で挑戦しています。

 黒沢さんはそれまでの固定されたイメージを覆すため、40歳を機に心機一転。子育や更年期を経て50代の今、お芝居に以前のように取り組めている一方、ある名優の助言の真意をようやく理解し始めたとも言います。その時々の感情を色に例えつつ、心境を語ってくれました。

◆年齢と共に変わってきた“炎の色”

――観た人からの感想が楽しみな魅力的な作品でしたが、最初の印象はいかがでしたか?

黒沢:わたし自身エキセントリックな役柄が多いものですから、それはもう得意分野なんですよね。でも今回はそうじゃない、感情が凪の状態で最初から最後まで演じ切る役柄でした。そういった役をやらせてもらえることは、うれしいだけではなかったですね。チャンスを与えてもらえたのだから「よし、わたしも向き合おう」と覚悟をもって臨んだ作品でした。わたしが演じるユリのことを考えながら同時に、全体を見なくちゃいけないのだと思わされましたし、俳優としての芽生えを与えてくれる作品だなと思いました。

――梅沢監督も得意のホラー要素を変えるなど、ご夫婦で新しい挑戦をされました。

黒沢:わたしは俳優を40数年、梅沢は特殊メイクアップアーティストを長くやっています。ひとつのことをやってきたふたりが、ともに団結することは面白いなと思いました。進化しなければそれぞれの世界で生き残っていくこと、あるいは必要とされることが無くなることになりますが、自分の要素を全部消したら黒沢あすかではなくなる、梅沢壮一ではなくなると思うんです。面白いところに互いを重きを置いて生きているなとは感じました。

――もともとご自身でも変化を望まれていたのでしょうか?

黒沢:わたしはこのとおり「行くぞ!」というタイプですが、年齢とともに炎の色が変わってきているんですね。この世界に入り、40歳手前まではマグマのような赤い炎だった。猛スピードで走るように猪突猛進していました。俳優としてユリのような凪そのものにはなれないけれど、そういう自分を表には出さないようにして俳優業を続けていくというように、自分の中で気持ちやスタンスがスイッチしてきた。これが年齢を重ねた、ということなのでしょう。

◆『冷たい熱帯魚』で演じたエキセントリックな役

――マグマの時期は、映画で言うと『冷たい熱帯魚』の頃でしょうか。

黒沢:はい。あの時が赤のピークです。あの作品をきっかけに、エキセントリックな役はやり切ったな思いましたから。だからすべてをやります、集大成という意味で取り組みました。それが『冷たい熱帯魚』でした。その後は、ようやく今は普通のお母さんの役であったり、そういう色を出せるところまで来れた。導いてもらった意識はすごくあります。

――ちなみに今の炎の色は?

黒沢:ブルーのような紫のような感じです。もしくは紺に近いかも知れません。若い頃もそうでしたが、自分の感情がだいたい色で出てきます(笑)。

◆結婚20周年を控えて

――来年は結婚20周年だそうですが、振り返ってみてどのような歳月でしたか?

黒沢:梅沢は「俺は黒沢あすかと結婚する」と最初に言っていました。今、その言葉に嘘はなかったと感じます。わたしが仕事がないときは奥さんとして母として務め、あるいは親戚付き合いをしてくれてありがとうと伝えてくれました。