「空自では花形職種である戦闘機パイロットは、民間では活かしにくく苦労することがあるようです。自衛隊の輸送機を操縦したのであれば、民間の輸送機パイロット、ヘリコプターであれば、民間のヘリパイロットの道が開けています。でも戦闘機を操縦できるスキルは、つぶしがなかなかききません」

◆安い給料で退職する元自衛官は少なくない

 人口減少が進む地方は、求人の絶対数がそもそも少ない。そのため、援護協会の力添えがあったとしても、待遇面で不本意な就職が起きやすいという。松田さんは、東北の地方銀行で、自衛官相手の営業職に就いた人の例を挙げる。

「その方は、50代半ばにして名刺の受け渡しの仕方から始めて、一人前になるべく頑張りました。でも、給料は手取りで15万円くらい。住宅ローンなど抱えている立場で、これは厳しすぎました。結局、彼は退職してしまいます。退職自衛官の平均月収は20万円台の前半です。30万円を超えるのは少数派で、20万円を切る人のほうが多いくらいです。

 定年時に、通常の退職金に加えて若年定年退職給付金がもらえるので、一部の雇用する側が『給料は安くてもいいだろう』と、足元を見ている可能性も否めません」

ブラック企業で疲弊する元自衛官も

 自衛官は定年後に再就職できても、10人に1人が半年以内で、4人のうち1人は4年以内に退職してしまうという。そうなってしまう理由は、上の例のような安い給料ばかりとは限らない。

「部署にもよりますが、平時の自衛隊の仕事は、慣れると割と楽で、人間関係も良好だったという人は多いです。それで、民間企業に移って、ギャップに耐えられなくなりやすいのです。ルーティンの業務をこなすだけで仲間もできなくて、やりがいを失って退職することは、よくあります。

 ブラックな職場で、辛くて辞める人も少なくありません。例えば、会社役員に運転手として雇われたけれど、土日も家族の送迎とかプライベートなことまでやらされるとかですね。また、元自衛官は正義感が強い人が多いのですが、それが仇(あだ)になって、社内で正論を振りかざして、孤立して退職というのも聞きます」

 松田さんのお話を聞いていて、たいがいの自衛隊出身者のセカンドキャリアは、順風満帆とは限らず、いばらの道を歩む人も多いという印象を受けた。それでも、不慣れな職場で奮闘し、働きがいを見いだす人もいるし、起業したりフリーランスとして活路をひらく人も最近は増えているという。

「人生100年」が現実味を帯び、定年は職業人生の終わりではなくなった。元公務員であるかどうかは関係なく、これからは誰もが、ある種の覚悟を持って定年にのぞむ必要があるのではないかと感じる。

<取材・文/鈴木拓也>

【松田小牧】
1987年大阪府生まれ。2007年に防衛大学校に入校。人間文化学科で心理学を専攻。陸上自衛隊幹部候補生学校を中途退校し、2012年、株式会社時事通信社に入社、社会部、神戸総局を経て政治部に配属。2018年、第一子出産を機に退職。その後はITベンチャーの人事部を経て、現在はフリーランスとして執筆活動などを行う。著書に『防大女子 究極の男性組織に飛び込んだ女性たち』『定年自衛官再就職物語 - セカンドキャリアの生きがいと憂うつ -』(いずれもワニブックスPLUS新書)がある。
X:@matsukoma_yrk

【鈴木拓也】
ライター、写真家、ボードゲームクリエイター。ちょっとユニークな職業人生を送る人々が目下の関心領域。そのほか、歴史、アート、健康、仕事術、トラベルなど興味の対象は幅広く、記事として書く分野は多岐にわたる。Instagram:@happysuzuki/