佐藤さんは母親が帰っていくのを見守ったが、そんな素振りを一切見せることなく時間が過ぎ、気づけば終電の時間が迫っていた。三人で一夜を過ごすことが恐ろしく、逃げるようにしてその場を去った。腹立たしい気持ちのまま自宅へ帰り、彼に騙された気がして泣いてしまったという。

「最悪な気持ちでした。家にお母さんがいるって、一言あってもよかったと思うんです。でもそういうのもまったくなくて」

 別れることも考えたが、それ以外に悪いところは一つもない。たまたま母親が来ていただけの可能性もある。そう自分に言い聞かせ、彼とのメッセージや電話は普通に続けた。

◆「二人で会えないの?」と聞いてみるものの…

 翌週末も彼のマンションへ行った。金曜日の午後七時過ぎに彼のマンションのドアを開けると、そこにはまたも母親がいたのだ。

「その日も三人で料理を囲んで食事をしたんです。それなりに楽しいんですけど、そういうのを望んでるわけじゃないんですよ。二人でいちゃいちゃもできないわけじゃないですか。それで、その日に聞いたんです。一緒に住んでるの? って。そしたら、お母さんはわざわざ車で三十分以上もかけて来てるんです。私が家に来るときは彼が母親に連絡するルールがあるようで」

 佐藤さんは続ける。

「文句というか、二人で会えないの? って伝えました。今は三人がいい、というのが彼の回答です。納得はできませんでしたけど、関係が壊れる方が怖くて」

◆一年経って「結構楽しくなってきた」

 その後付き合って一年ほど経つが、今もなお彼のマンションへ行くときは母親がいるという。自分の身に喩えたらノイローゼになりそうな気もするが、その辺は大丈夫なのか。

「それが結構楽しくなってきて。ごはんも作ってくれるし、嫌味も言ってこないんです。娘みたいに可愛がってくれるんですよ。誕生日にブランドのバッグもくれたり。だから、もうこのままでもいいかな、って気持ちになっています」

 しかし、男女の儀式のようなものはどうなっているのか。

「それは、まあ。こっそりしています。お母さんが家に来るのが遅れてるときとか、買い物に出てるときとかに様子を見計らって。ロマンティックではないですけど、初めてのときもそんな感じでした」

 佐藤さんは明るい表情でそう語る。

 常識やルールというものは、それまでの人生においての思い込みなのかもしれない。彼らが幸せならば、他人からどうこう言われる筋合いもないのだろう。

<TEXT/山田ぱんつ>

―[奇妙な男女関係]―