自分自身が一方的にジャッジされるばかりなのであれば、だんだんと相手に話したり相談したりするのが億劫になるであろうことは想像に難くありません。

 つまり、Aさんは「大事なことは一緒に決めたい」「事前に相談してほしい」と口にしてはいるものの、

 1. 自分が興味・関心のないことについては「どうでもいいこと」として、パートナーのニーズや価値観を蔑ろにし、
 2. 「お互いのため」と言いつつ(自分自身の理解責任を放棄し)相手に説明責任や負担を一方的に押し付けている状態、

 すなわち、(Aさんが意図している/していないに関わらず)「俺の意見やルールに従え!」とパートナーに上下関係を強要してしまっている可能性が非常に高いのです。

◆Aさんのパートナー視点からは、まったく別の姿が見えていた?

 そのため、この相談はAさんのパートナーの視点からは、次のように見えている可能性があります。

「『大事なことは一緒に決めたい』って言うから、子どもの塾のこととか事前に相談しようと話しかけているのに、いつも『忙しい』とか『時間がない』とか言うばかりで、そもそも相談するための時間を取ってくれないんです。たまに話ができても『何が言いたいのかわからない』『整理してから話をしてほしい』って……失礼ですよね! 

 それなのに、私が整理してから話をすると、『勝手に決めてくるな』と怒り出したり、『いつも君は相談しないよね』とか嫌味を言い出したりしてくるんです。ひどいと思いませんか? こちらのことを理解しようとしないで、自分の感じ方や考え方を一方的に押し付けてくるような人とは一緒に暮らしていけません」

 僕は、Aさんの言動に違和感を感じたので、確認してみました。

「なるほど。Aさんとしては、パートナーと一緒に子どもの塾のことを決めたかったんですね?」

「はい。そうです」とAさんは答えてくれました。

「普段は仕事で忙しく、家のことや子どものこともあるので、お互い自分の時間もなかなか取れないんです。だから、子どもの塾のことを相談し決めるのにかかる時間を少しでも減らせるように、事前にポイントを絞って相談してもらえる方がお互いにメリットがあると思うんです」

僕は、Aさんに質問してみました。

「そうでしたか。では、今回、Aさんのパートナーが子どもの塾のことを決めるにあたり、Aさんに事前に相談しなかったのはなぜだと思いますか?」

「え……うーん……」

 Aさんの表情が少し曇りました。

◆相談は、最初から答えが決まっているとは限らない

 僕は、続けて「Aさんのパートナーがご自分のニーズをAさんに教えてくれないのは、なぜだと思いますか?」と質問してみました。

「Aさんのパートナーは、子どもの塾のことで相談したかったポイントを言語化できているけれど、Aさんに話したくなかったのでしょうか? そもそも相談したいこと自体をうまく言語化できていないとか、相談のポイントが何なのかをご自身でもわかっていなかったという可能性はありませんか?」

 Aさんは、ハッとした様子で答えてくれました。

「そうか……私はパートナーから相談してもらえなかったことを『自分を軽んじている』とか『自分を信頼してくれていないからだ』とばかり思い込んでいましたが、確かにそういう時だけではないですよね」

 通常、悩みや相談したいことなどは、何でも言語化されていたり、論点整理できているようなことばかりではありません。

「相手は何を伝えようとしているのか、こういうことだろうか?」と相手の意図やニーズを想像しながらコミュニケーションを重ねることで、相手自身でさえも気づいていなかったことが明らかになってくる場合も多々あります。