サクラとして与えられた業務は内見の現場でパソコンのモニターを眺めているだけでよかったが、クライアントであるゲームアプリ会社にしてみれば会社の命運を賭けた一日だったろう。その心中を察し、おのずと筆者のモニターを見る目にも力が入った。
また、コロナ禍には、とある飲料メーカーによる元有名スポーツ選手を招いたオンライン講演会の撮影にサクラ2人のうちのひとりとして立ち会ったことがある。
筆者は飲料メーカーと契約している大手小売店の販売部長という肩書。もうひとりのサクラは上役の取締役だったのだが、事件はこの上役が引き起こした。
仕事を終え一緒に帰っていると、「クライアントが用意した元スポーツ選手との挨拶原稿を現場に置き忘れた!」と言うのだ。事情を知らない人間の手に渡ったら一大事である。すぐに引き返して事なきを得たようだが、同じサクラとして冷汗が出た瞬間だった。
ちなみに、この講演会は双方の会社の担当者が契約を続けるために仕組んだダミーで、撮影されたビデオは永遠に闇に葬られるという。
◆「ブスを10人以上集めるの大変なんだよ」
このように、サクラと一口に言っても誰もが務まるわけではない。以前、遠方に結婚披露宴の仕事で出かけた際、帰りの車中でサクラを束ねる代理出席業者がこぼした言葉が深く記憶に残っている。
なんでも、近々、都内のとある自治体が主催する街コンの手助けを頼まれたらしいのだが、女性のサクラを10人以上集めなければならないという。
「男の参加者から連絡先も訊かれないようなブスを10人以上集めなければならないんだから大変なんだよ」
シビアな世界である。
<文/ボニー・アイドル>
【ボニー・アイドル】
ライター。体験・潜入ルポ、B級グルメ、芸能・アイドル評などを中心に手掛ける。X(旧Twitter):@bonnieidol
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