富裕層の数自体が増えている中で高額品のニーズは根強く、郊外や地方、鉄道系百貨店の閉店による集中化が影響したと考えられます。また、同社は近年、ラグジュアリー品を拡充するなど「高感度上質」を強化する方針を掲げており、富裕層向け強化の施策が成功に繋がったとみられます。

◆郄島屋:徐々に「SC化」を進める

 百貨店各社の統廃合が進むなかで、郄島屋は独立系として歩んできました。業界2位に位置する現在は国内で14店舗、海外では4店舗を展開しています。「玉川郄島屋S・C」という名称通り、郄島屋は純粋な百貨店業だけでなくショッピングセンター開発も進めてきました。SC店は賃料収入を主体とし、イオンモールのように専門店で構成されます。

 24年2月期の全社営業収益4,661億円のうち、賃料収入などの主とする商業開発業の収入は519億円です。コロナ禍では三越伊勢丹HD同様の業績推移となりました。20年2月期から24年2月期までの総額営業収益は次の通りです。

9,191億円→6,809億円→7,611億円→8,818億円→9,522億円

 直近では他社同様、高額品販売やインバウンドや牽引しました。24年2月期の好調はリベンジ消費の影響もあるのでしょう。今後については売上に含む百貨店業の割合を縮小し、「商業開発・金融・その他」事業を伸ばす方針です。具体的には、これら3事業の構成比を23年度の39%から31年度には47%に伸ばす目標を掲げています。

◆J.フロント リテイリング:今後は7エリアに集中していく

 業界3位のJ.フロント リテイリングは2007年に大丸と松坂屋が合併して誕生しました。2012年にはパルコを取得しています。パルコを取得しているように、近年、百貨店業界では特にSC化に力を入れてきました。松坂屋銀座店の跡地に誕生し、ブランドの専門店で構成される「GINZA SIX」も同グループが出資しています。2021年から23年度までの中計では自社で手掛ける「自主編集売場」を縮小する方針を掲げていました。20年2月期から24年2月期における百貨店事業(大丸・松坂屋)の総額売上高は次の通りです。

7,150億円→4,672億円→5,558億円→6,580億円→7,479億円

 やはり他社と同様、直近では高額品が伸び、外商の売上も拡大しました。昨年度からはインバウンドの回復も寄与したようです。今後について同社は人口の多い札幌、東京、名古屋、京都、大阪、神戸、福岡の7エリアに集中するとしています。百貨店事業に関してはアプリ会員数を増やして集客に努めるほか、若年富裕層や外商を強化する計画を挙げており、やはり“富裕層向け強化”の姿勢が伺えます。

◆ラグジュアリー化が進む百貨店の今後は?

 中間層が離れていくなか、百貨店が生き残るには富裕層及びインバウンド向けを強化するしかないと言われています。そして各社の動向をみてみると、特に近年は富裕層向けを強化する施策が目立ちます。前述の通り、富裕層の数自体は増えており、外商の売上も伸びています。

 立地面でいえば、ターミナル駅や銀座・日本橋の大型店しか残らないでしょう。地方はおろか首都圏の郊外でも百貨店は閉鎖し続けており、都心でも狭い店舗は苦戦しています。2000年以降、都内の百貨店跡地に家電量販店が進出する動きも加速しました。そして新宿を例に挙げると、再開発で小田急百貨店が閉鎖したことにより、一部の客層が郄島屋に流れたと言われています。そのせいか、再開発ビルに小田急百貨店が復活するかどうかは未定のようです。

 大都市圏に富裕層をターゲットにした大型店が数店舗程度しかないーー百貨店業界の将来はそのような構造になるのではないでしょうか。各社による富裕層の奪い合いも激しくなりそうです。

<TEXT/山口伸>

【山口伸】
経済本や決算書を読み漁ることが趣味のマネーライター。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー Twitter:@shin_yamaguchi_