続きが見たい! と思わせる理想的な第1話だった。

月9『海のはじまり』(フジテレビ系 月曜よる9時〜)は、ある日突然、自分に娘がいた事実を突きつけられた月岡夏(目黒蓮)が“家族”について考えてゆく物語。

第1話では夏と娘らしき海(泉谷星奈)との出会いと、夏と海の母・南雲水季(古川琴音)の大学時代の回想が、30分拡大版で丁寧にエモーショナルに描かれた。

◆まったり見ていたら、最後にぎょっとなる

濃いめのアイスラテのようにほろ苦い青春の恋の思い出を、琥珀糖(こはくとう)のような透明でひんやりした映像でまったり見ていたら、最後にぎょっとなる。ホラーとまではいかないけれど、これからの月岡夏の行く末を思うと心がざわつく。

月岡夏には、百瀬弥生(有村架純)という年上の恋人がいる。ある日、夏の部屋で夕飯を食べながら夏休みの予定を考えていたところ、思いがけない連絡が入る。大学時代、夏がつきあっていた水季が亡くなったのだ。

葬儀に参列した夏は、そこで6歳になる水季の娘・海を気に留める。水季はこの6年、シングルマザーとして娘を育てていたのだ。

幼い少女・海の傍らには、祖母・朱音(大竹しのぶ)や水季の勤務先の同僚・津野晴明(池松壮亮)がいる。津野は、海の父親なのか?と夏が勘違いするほど、海に親身だ。

とはいえ、やっぱり母ひとり子ひとり、母を亡くした水季を「かわいそう」と無責任に同情する外野に夏は苛立(いらだ)つ。

◆泉谷星奈の名演技に実は大人じゃないかと思ってしまう

「聞かなくていいよ」とイヤホンを貸して周囲のノイズからシャットアウトさせたうえで、スマホに残してあった水季のムービーを海に見せる。それは海(sea)が大好きだった水季と海に行ったときの思い出の映像だった。

満面の笑顔で浜辺を海(sea)に向かって走る水季の生き生きした姿に海(娘)は見入る。映像を見ながら泉谷星奈がゆっくり笑顔になるところが名演技過ぎる。とても大人びていて、実は大人なんじゃないかと思ってしまう。まさか死んだ水季が乗り移っているんじゃないかと思うくらい(それは違うドラマ)。

夏と海、ふたりにとって水季は大事な存在で、その大切な人の記憶を、ふたりは一瞬共有する。ただそれだけの行きずりの関わりのはずだった。ところが、東京に戻ってきた夏の部屋に、海がひとり訪ねてくる。かつて水季に部屋まで連れてきてもらったというのだ。海に「夏君、海のパパでしょう?」と問いかけられて……。

ぞくり。知らない間に自分に子供がいて、すっかり大きくなっていたらかなりビビる。

しかも、突然、訪ねて来て、前に母につれて来られたことがあると大人びた調子で言われたら、その動揺はかなり激しいに違いない。いまはほかに恋人がいて、この部屋に通ってきているのだからなおさらだ。

ただ、夏は水季と8年くらい会っていなくて、海は6歳。一瞬、夏と別れてから子供ができたのかなと思うような、いろいろミステリアスな煙幕も張りつつ、やっぱりーーという展開(海はもうすぐ7歳になることがわかる)。

◆目黒蓮と古川琴音のやりとりは涙なくしては見られない

複雑な人間もようを、言葉の魔術師・生方美久の巧みなセリフが彩る。固有名詞の「海」と「夏」と人名の「海」と「夏」でいささかややこしい、これがポイント。「海好き」「夏好き」がダブルミーニングになる。

なにごとも曖昧(あいまい)な夏に対して、自分の意思がしっかりし過ぎている水季。性格は対称的だが、水季はある点においてはなぜか曖昧になる。そこで生きるのが「海」と「夏」の言葉だ。

大学時代、夏とつきあい、水季は妊娠した。中絶するための書類に夏にサインをもらおうとするとき、気丈にふるまう水季と、驚きとなんともいえないじわじわした感情が心と瞳を浸していく夏。