[画像] インスタカート 、広告ビジネスが急成長。YouTubeへの投資でAmazonに対抗

デリバリープラットフォームのインスタカート(Instacart)は、急成長するリテールメディア市場でより大きなシェアを獲得しようとしており、ブランドが同社の豊富な顧客データを活用してYouTube上で広告をターゲティングできるようにした。今回の提携により、広告主、特にCPGブランドは、過去の購買履歴に基づいて米国1億900万世帯のインスタカートの顧客ベースにターゲットを絞ることができる。インスタカートはすでにクロロックス(Clorox)や大手広告エージェンシーのピュブリシスメディア(Publicis Media)と提携し、ショッパブル広告の試験運用を展開している。インスタカートはこの新サービスで、ブランド各社に対して広告キャンペーンがどれだけの売上増をもたらしたかというインサイトを提供することになる。たとえばクロロックスの消毒スプレーのYouTube広告を視聴者が直接クリックすると、インスタカートの商品ページに遷移し、そこで理論上は何かを購入することができるという仕組みになっている。インスタカートはその即日配達機能が顧客にとって魅力的なものになることを期待している。YouTubeとの提携はブランドがプラットフォーム外のリテールメディアで広告をターゲティングできるようにするというインスタカートの戦略に基づいており、実店舗やウェブサイト、アプリの枠を超えて小売業者の顧客データを活用した広告を配信する。1月にはGoogleショッピング広告(Google Shopping Ads)とも同様の提携を発表した。昨年にも、同社の顧客データをロク(Roku)とザ・トレードデスク(The Trade Desk)の広告ターゲティングに使用できると発表している。「我々はYouTubeのようなプラットフォームと密に連携して媒体費をより効果的に利用しようと真剣に考えているブランドパートナーに追随している」とインスタカートの広告プロダクト担当バイスプレジデントのアリ・ミラー氏はインタビューで語った。「当社がブランドパートナーに提供しているのは、伝えたいメッセージの対象をより的確に絞り込み、購買意欲の高い消費者に確実にリーチし、マーケティング費用の真の効果を測定する能力である」。

インスタカート vs Amazon

eコマース最大手であるAmazonも収益性が高く急成長中の広告ビジネスを展開しており、今回の提携はAmazonに対するインスタカートの競争心をさらに強固なものにしている。2023年、Amazonの広告収入は前年比24%増の約470億ドル(約7兆4000億円)に達した。これに対しインスタカートの広告部門は、2023年に収益全体の30%近くを占める8億7100万ドル(約1374億円)を稼ぎ出している。Amazonはまた、5月初頭に開催された広告アップフロントでQRコードを使用しない3つの新たなショッパブル広告フォーマットを発表した。それと同時に、食料品業界におけるインスタカートの縄張りに侵入しようとしている。シアトルに本社を置くAmazonは最近、2億人のAmazonプライム会員向けに食料品配達サービスを開始した。

急成長する広告ビジネス

eマーケター(eMarketer)は、米国における小売広告費は今年600億ドル(約9兆5000億円)近くに達すると見込んでいる。このうちプラットフォーム外の広告が占める割合が高まる可能性が高く、eマーケターは2024年に約62%増の100億ドル(約1兆6000億円)以上に成長すると予測した。メディア・アド+コマース(Media, Ads + Commerce)の独立メディアアナリストであるアンドリュー・リップスマン氏によると、全体としてYouTubeとの提携はインスタカートの広告ビジネスがこの1年で勢いを増しただけでなく、オフサイト広告の普及が進んでいることも反映しているという。「もし私が大規模な消費者ブランドならリーチを最大化したいと考えるし、YouTubeはそのためのもっとも強力な手段のひとつだ。販売までのプロセスを完結させてその規模の拡大を容易にさせるようなものは何でも、極めて強力になるだろう」。米モダンリテールはインスタカートのミラー氏に、広告の将来や消費者行動の変化、混雑したリテールメディア市場での存在感などについて話を聞いた。なお以下の対談は、長さと明瞭さのために編集・要約されている。

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――Googleショッピングなど、インスタカートの過去の提携がYouTubeとの新たな提携にどのような影響を与えたか。たとえばGoogleショッピングで経験してきた成功指標のうち、YouTubeとの提携で再現したいものはあるか?

当社のプラットフォームでは平均15%の売上増加を記録しており、本当に誇りに思っている。Googleショッピング広告のパイロットテスト版では、そのパートナーの一社であるネスレ(Nestle)の週間クリック数が3桁の伸びを示した。さらにGoogleショッピング広告から購入した半数以上が、そのブランドにとって新規顧客だった。インスタカートのプラットフォーム上で消費者が高い購買意欲を持っているときだけに限らず、我々は消費者にリーチする支援をしているが、それが非常に強力で素晴らしく、大きな成果をもたらしている。しかし買い物をはじめる前には、何をどこで買うかを検討するという多くの瞬間がある。ウェブやコネクテッドTV、Google検索全般、そしていまやYouTubeに至るまで、このような考え抜かれたエントリーポイントを設けることで購買行動に影響を与え、これらの統合を介して新規顧客を獲得することができる。

――インスタカートの広告を購入するブランドはすでにインスタカートで販売を促進している。今回の提携はまだインスタカートの広告主ではないブランドにとってどのようなメリットがあるのか?

ほとんどの場合このようなパートナーシップを開始する際には、共通のパートナーと提携することが多い。誰もがよく知っていて愛用している多くのCPGブランドは、インスタカートとYouTubeという両プラットフォームと提携している。我々はテストや検証のアプローチが好みだ。このような試験的な取り組みを実施し、エージェンシーパートナーだけでなくメディア側やブランド側の双方のパートナーと共に学び、確実にその結果を一緒に推進して理解できるようにしたいと考えている。また同時に、インスタカートにできることに慣れてきた人々に対して新たな機会を提供できるようにしたい。

――JPモルガン・チェース(JPMorgan Chase)からユナイテッド航空(United Airlines)にいたるまで、いまやどこもアドネットワークだ。業界が飽和状態に向かう可能性に対して懸念はあるか?

我々が本当に重視しているのは、信頼と確固たる結果だ。メディアレイティングスカウンシル(Media Ratings Council)が当社の指標とインプレッションについて非常に綿密な監査を実施した。そして当社は信頼できる測定結果と実績の情報源であり、ブランドがプラットフォームおよびプラットフォーム外の成果を高めるために投資できる企業であるという認定を取得したことを実に誇りに思っている。商品の在庫があるお気に入りの小売店で購入するという能力を簡単に拡張し、ウェブ上のさまざまなリテールメディアネットワークを活性化する際の複雑さを取り除くという考え方こそ、インスタカートが本当に輝ける分野だと思っている。

――ショッパブルの課題として、メディアバイヤーに広告の未来がここにあると信じてもらうことだけでなく、受動的な動画視聴者にYouTube動画を買い物手段として見てもらえるかどうかが挙げられる。インスタカートはどのように消費者の購買習慣を変えようとしているのか?

YouTubeはもちろんエンターテインメントとして素晴らしいプラットフォームだが、同時に購入の意思決定をする際に商品を調べるために使用されるナンバーワンのプラットフォームでもある。この動画の力、つまり視覚や音、動きをフルに使って新商品を説明し、それが日常生活で実際にどのように機能するかを紹介するという能力は、商品を宣伝する上で非常に有効な方法なのだ。我々は消費者がより簡単にそのプロセスを完了できる手助けをするために、すでに起こっている行動をさらに促進し、ブランドが費やす価値と資金を強化していると考えている。したがってYouTubeで商品を検索するという発想は非常に自然なことであり、すでに市場で見られてる行動だ。しかし買い物客がそのリサーチや購入検討商品に関する情報に基づいて実際にお気に入りの小売店で購入できるという考えは、そのような意図や発見をより実行可能なものにするための非常に効果的な体験となり得る。その上インスタカートは、「自分の地域ではどこで買えるのか?」「30分で入手できる場所はどこか?」など、多くの複雑な要因を取り除いてくれるのだ。[原文:Instacart is betting on YouTube to turbocharge its $871M ad business]Allison Smith(翻訳:Maya Kishida、編集:都築成果)Image via Instacart