[画像] 母と息子に見捨てられ、足首には「発信機」…プーチンに逆らった女性記者が陥った悲惨すぎる末路

「NO WAR 戦争をやめろ、プロパガンダを信じるな」...ウクライナ戦争勃発後モスクワの政府系テレビ局のニュース番組に乱入し、反戦ポスターを掲げたロシア人女性、マリーナ・オフシャンニコワ。その日を境に彼女はロシア当局に徹底的に追い回され、近親者を含む国内多数派からの糾弾の対象となり、危険と隣り合わせの中ジャーナリズムの戦いに身を投じることになった。

ロシアを代表するテレビ局のニュースディレクターとして何不自由ない生活を送っていた彼女が、人生の全てを投げ出して抗議行動に走った理由は一体何だったのか。

長年政府系メディアでプロパガンダに加担せざるを得なかったオフシャンニコワが目の当たりにしてきたロシアメディアの「リアル」と、決死の国外脱出へ至るその後の戦いを、『2022年のモスクワで、反戦を訴える』(マリーナ・オフシャンニコワ著)より抜粋してお届けする。

『2022年のモスクワで、反戦を訴える』連載第40回

『非公開での政治裁判...都合が悪いプーチンの「強硬すぎるやり方」と、女性ジャーナリストの「拳銃より強力な抵抗」』より続く

足首の発信機

時計は真夜中を指していた。取調委員会の係官は熱心に何か報告書に書き込んでいた。連邦刑執行庁の査察官はわたしの家の中を歩き回り、一部屋ごとに、嵩張る昔の電話機のような基地局を設置した。この機械には、連邦刑執行庁とつながる緊急ボタンがついているだけだった。

査察官はわたしの片足に、足首装着用の電子発信機を取り付けた。

「これはどういう仕組みで機能するんですか?」

「この発信機は常に基地局に信号を送っています」査察官が説明した。「つまり、もしあなたが家から出たら、われわれはそれを即座に知ることができるのです。そうなるとあなたの保全処分はもっと厳しいものになりますね」

玄関に突然、クリスティーナがあらわれた。わたしはたまらなくうれしくなった。サマラに帰ったクリスティーナがこんなに早く会社を辞め、戻ってきてくれたことが信じられなかった。

誰も助けてくれない

「食事のデリバリーの仕事でもしようかしら」

クリスティーナは、食料品の入った重たい袋を2つ床におろしながら微笑み、冗談半分に言った。

「バスマン裁判所の決定には、オフシャンニコワさんは弁護士と近親者とのみコミュニケーションが許される、と書かれています」

抑揚のない声で取調委員会の係官が言った。

「あなたは親類ですか?」

「いいえ。親友です」

普段と変わらない様子で、クリスティーナが微笑みながら答えた。

「マリーナには、世話をしてくれる親類はいません。お母さんは、マリーナが早く刑務所に入ればいいと思っています。マリーナはプーチンに反対していますからね。もう大人の息子さんは家を出て行きました。わたしの他、誰も助ける人がいないんです」

「本当です」わたしは言った。

「クリスティーナの助けがないと、自宅軟禁のまま、わたしは飢えて死んでしまいます。拘置所だって食事は出るじゃないですか」

係官は考え込んでいた。夜遅いし、疲れて家に帰りたがっているようだった。この状況をどう処理したものか、困惑していた。係官は、後で考える、というように片手を振ると、クルマに乗り帰って行った。

非公開での政治裁判...都合が悪いプーチンの「強硬すぎるやり方」と、女性ジャーナリストの「拳銃より強力な抵抗」