少し前からネットを中心に広がっている「男児ヘイト」という言葉をご存知でしょうか。
言葉自体は以前からしばしば目にしましたが、Xでは「『男性は入らないで』と書かれた女性専用の婦人科に男児ママが男児を連れ込んでいた」といった5月末のポストから議論が激化。小学生にも満たない男児を性的な意味で嫌悪するさまざまな意見が寄せられていました。
◆婦人科や授乳室に男児を連れて行くのはダメ?
当該のポストは「激込みの婦人科に旦那さんや彼氏を連れてくる人が理解しがたい」というポストを引用する形で発信されたもの。
「『男性の方は入らないでください』と書かれた女性専用の婦人科でも男児の連れ込みはある。そのクリニックにはもう行かない。男児ママってどこでも男児を連れ込む」
と、女性だけの場所に男児を連れてくる男児ママへの呪詛も書き込まれていました。
このポストに対して「男性入室禁止の授乳室に男児の赤ちゃんを連れて行くなってこと?」といった反論が。「男性入室禁止」については成人男性を指していることが明らかですが、男性というだけで男児も含まれるのか?という議論が巻き起こっていました。
◆「2歳でも女性をエロい目で見ている」という声まで
さらに、
「男児でも3歳くらいなら授乳室に入ってほしくない」
「2歳でもすでに女性をエロい目で見ている」
「見ず知らずの男児に無邪気なフリしてお尻を触られた」
といった意見も続きます。婦人科や授乳室に男児を連れて行ってもいいのかという話から、
「男は乳幼児期から性に目覚めて女性に性暴力をふるう生き物だ」
という“男児ヘイト”にまで繋がっていったのです。
◆女湯に入れていい男児の年齢も論争に
以前から銭湯や温泉の女湯に母親と一緒に入る男児に関しては、年齢制限に関する議論は活発に起こってきました。現在では多くの自治体で、女湯に入れる男児の年齢を9歳から6歳まで引き下げる動きが広がっているとも言われています。
幼稚園児から小学校低学年あたりの「男児」が、すでに性の目覚めがあるのかどうかは個人差がかなり大きいでしょう。そのため「〇歳から男湯に入るべき」という年齢制限は非常に難しい線引きになります。
ただ3〜5歳くらいの男児が女性の体に興味を持って触るのは、性的な欲情や加害意識ではなく、単純な好奇心ではないでしょうか。これくらいの男児は、女性の胸やお尻はプライベートゾーンであること、相手の同意なく勝手に体を触ってはダメであることを教育していく段階です。
こうした男児の行動を一方的に「あいつらはすでに女性をそういう目で見ている」と断罪してしまうのは考えが行き過ぎているでしょう。
◆男児を1人にしておく危険、ワンオペ外出…
また赤ちゃんの授乳の時に、一緒に連れて来た上の子も授乳室に入るのは、母子だけで外出した際には一般的なことです。母子だけで外出した時、母親は男子トイレに入れないので、仕方なく女子トイレに一緒に行くケースも。
最近では男児への男性からの性加害の事件も少なくありません。そのため、公共の場で幼い男児を1人にさせておく危険性を考えて、母親と一緒に行動させるという事情もあります。
そもそも母親が女湯や女子トイレに男児を入れたり授乳室に同行させたりしているのは、父親の不在が引き起こしています。一緒に父親がいない、または父親に安心して男児の世話をお願いできないことも、原因のひとつではないでしょうか。
男児ママも積極的に女性専用のスペースに男児を連れて行っているわけではありません。本当は連れて行きたくないのに、仕方なく“連れ込んで”いる事情があります。
当該ポストは「男児ママってどこでも男児を連れ込む」として、その背景を想像することなく男児ママへの恨み節を綴っていました。子育ては母親だけでなく父親も一緒にやるべきもの。それなのに、男児の子育ての責任をすべて母親に押し付けているかのような物言いには違和感は否めません。
◆性教育はしているけれど…悩む男児ママたち
男児である息子を育てている筆者としては、昨今の風潮も影響して早期から性教育には注力しています。息子、娘と3人でお風呂に入りながら男女で体が違うことを伝え、園や学校で女の子が嫌がることをしていないかとそれとなく聞くことも。園ではまだまだ着替えやトイレが男女でオープンになっていますが、「女の子の体をじろじろ見てはダメだよ」と日頃から口酸っぱく伝えているつもりです。
筆者は男児ママの知り合いともよくこうした性教育のことを話していますが、総じて「息子を性犯罪者にしたくない」という意見に落ち着きます。
今回の件も話を聞くと、
「女子トイレに連れて行けば他の女性から『男児を連れてくるなよ』という目で見られていそうで怖いし、男子トイレに1人で行かせるのも変質者がいそうで怖い」、
「家庭内で性教育を頑張っても小学校のやんちゃな男の子から下ネタの影響を受けてくる」
という意見が。
また「家庭内の性教育は母親以上に父親が大事だと思う。一番身近な大人の男性が一緒に銭湯やトイレに行くことで性差や異性への配慮を意識できる」とも言っていました。
◆安易な“男児ヘイト”は何も解決しない
母子だけの外出の際に、まだまだ小さな男児が婦人科や授乳室、女子トイレや銭湯に入ることは致し方ない部分も大いにあります。そもそも女性専用の場所に連れてこなくてもいいように、預かり保育やシッターサービスの拡充、多目的トイレの増設や男子トイレの治安向上、父親のさらなる育児参加が進んだりすれば、“男児を連れてこないで”という人たちの希望が叶うのではないでしょうか。
にもかかわらず、ただ婦人科や授乳室、女子トイレや銭湯にいる男児だけを見て“男児ヘイト”をまき散らすのは、子育てしにくい社会をどんどん作りだしているように思えてなりません。
男性のみならず男児にまで憎悪の気持ちをむき出してしまうことは、同性である男児ママをも苦しめてしまうでしょう。男児をめぐって女性同士でいがみ合い、苦しめ合うのではなく、建設的な子育て環境に向けた議論が進んでいってほしいものです。
<文/エタノール純子>
【エタノール純子】
編集プロダクション勤務を経てフリーライターに。エンタメ、女性にまつわる問題、育児などをテーマに、 各Webサイトで執筆中
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