そして観客を沸かせたのが、坂道AKBの楽曲『初恋ドア』。前フリの映像で、山下本人も、MV撮影の当日に振り入れをして以来一度もライブで踊っていないと振り返った、スペシャルユニットの曲。5年前の2019年に坂道シリーズとAKB48から若手メンバーが集まったユニットの中で、この曲のセンターを務めたのが山下。5年を経て卒業したメンバーも多く、グループも別々なので、もし披露できるならセンターの山下が去るこのタイミングでしか…と考えられなかったところでファンのひそかな期待に応えた。
メンバーには弓木奈於・林瑠奈・佐藤璃果・黒見明香・松尾美佑を選んだが、6年前の坂道合同オーディションから研修生を経て、4期生に合流した5人だ。それぞれに苦労はあったが、バラエティやスポーツ、アンダーライブでの活躍と着実に乃木坂の要になっている彼女たちへの山下からのメッセージにもなった。同時に、48グループとのコラボユニットという経験も、山下のキャリアに確かに刻まれていることをファンに伝えるという、気遣いたっぷりの演出でもあった。
卒業するメンバーが、各期の楽曲でコラボするシーンも卒業ライブで定着してきたが、2日目の山下は5期生とは『心にもないこと』、4期生とは『図書室の君へ』を選んだ。前者はこの5月12日に誕生日だった池田瑛紗で、ステージ上で山下が池田のバースデーを祝ってくれた。池田とファンにとっては忘れられない24歳のバースデーになったことだろう。『図書室の君へ』では大阪で舞台出演していた柴田柚菜が関西からかけつけ、4期生と山下で休業中の掛橋沙耶香のセンター曲を披露し、あたたかさを感じる瞬間になった。
2日目アンコールのラストは、1日目オープニングと同じ『チャンスは平等』。1日目にこの曲で月のセットに乗って降りてきた山下が、2日目には月に乗って上がっていき幕が降りる。もちろん自身の名前にかけているが、かつてミュージカル『美少女戦士セーラームーン』で月野うさぎ/セーラームーンを演じたことも連想したくなる。そして『チャンスは平等』は、ディスコサウンドにのせたグルーヴィーな曲で、乃木坂46に合格するまでアイドルのオーディションに落ちてきた山下からの、人生の応援歌のような1曲。
3期生オーディションに落ちたら、大学受験に専念してアイドルは諦めるつもりだったという山下。グループアイドルだからこそ、誰もがスポットを浴びるライブに。乃木坂らしさのバトンを後輩につなぎ、小さなエピソードでもライブの演出に活かす――最後のチャンスで夢を叶えてくれた乃木坂46とファンへの恩返しが、卒業コンサートに詰め込まれていた。
12年前に、AKB48の前田敦子の卒業コンサートを東京ドームの客席で観ていた少女が、誰からも慕われる存在になって同じ会場でアイドルを全うして去っていった。山下美月の7年8か月の物語の集大成として、東京ドームでの2日間は運命的といってもいい到達点だった。
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